春の選抜と夏の選手権を通じて熊本県の優勝回数は、実はたったの1回。それが58年の第30回春の選抜のことである。そして、その熊本県に唯一の栄光をもたらしたチームは“古豪”“名門”の熊本工だと多くの人が思うのではないだろうか。だが、熊本工は春夏通じて1回も優勝していない。あの“打撃の神様”と言われた川上哲治(元・読売)を筆頭に伊東勤(元・西武。のちに埼玉県立所沢高校定時制に転入)、緒方耕一(元・読売)、前田智徳(元・広島)、荒木雅博(中日)など、数々のプロ野球選手を輩出しながら、最高成績は夏の選手権での準優勝3回(34年、37年、96年)止まり。春の選抜にいたっては、ベスト4進出は4回あるものの、いまだ1回も決勝戦へ進出していないのだ。
そんな熊本工に代わって、熊本県に優勝をもたらしたのが58年の第30回大会で春の選抜3度目の出場を果たした済々黌。大会では清水東(静岡)を3対0、新潟商を4対0で降すと準々決勝でエース・王貞治(元読売)を擁し、春の選抜2連覇を狙った早稲田実(東京)を7対5で、準決勝では熊本工との同県対決を5対2で制し、決勝進出を果たした。
迎えた決勝戦も愛知の強豪・中京商(現・中京大中京)相手に7対1で快勝。この瞬間、紫紺の大旗が初めて関門海峡を越えることとなった。つまり熊本県は九州地区で初めて春の選抜優勝県となったのである。
ちなみにこの済々黌は春の選抜は4回、夏の選手権にも7回出場していて、文武両道を誇る熊本県きっての進学校。なんとお笑いコンビ・くりぃむしちゅーの母校でもあるのだ。
さて、熊本工である。同校は大会初日の第3試合で前年の覇者・智弁学園(奈良)と激突することになった。果たして今回は熊本県きっての“古豪”“名門”の意地を見せることが出来るか。