短い言葉一発で“ストーン!”と落とし、一瞬で空気を変える。ある種、捨てゼリフ的に発せられる、痛快この上ない殿のボケが大好きです。
殿に散々ごちそうになった帰り際、殿が迎えの車を待つ間あたりに発生する、“殿、本日もごちそうさまでした”といった感謝の空気が漂い出した瞬間、
「参ったな~。今から帰って司法試験の勉強だよ」
と、軽くボけ、その一発で感謝の空気を吹き飛ばし、帰っていきます。この、殿の帰り際の捨てゼリフ的ボケには、他にも、
「今から帰って朝刊配らなきゃな」
「明日は草津でビンゴ大会の営業だよ」
などなど、諸々パターンがあります。
殿のこういった、まじめな空気を一発でかき消すボケは、ホメられたり、尊敬された扱いを受けると、さらにパワーアップします。
もうだいぶ昔ですが、あるレポーターが、“今、たけしさんはモテモテですね”みたいな話を振ると、
「え~、これでアソコが被ってなきゃ、言うことないんですが‥‥」
と、“別に言わなくていいカッコ悪いこと”を引き合いに出し、ホメの変な空気を蹴散らしていました。
やはり昔、ある司会者から「たけしさんほど国際感覚に優れた人はいない」と、紹介された際には、
「えー、こう見えて私もシベリア抑留が長かったですから‥‥」
と、キレッキレのコメントを炸裂させるのでした。
とにかく、周りがホメたりすると、殿はもう必ず、自虐的なボケを入れて煙に巻きます。そういえば以前、
「よくいるだろ。お世辞でホメてるのに気づかないバカが。こっちがお世辞で言ってるのに、そのまま受け止めてその気になってるバカが」
と、苦言を呈していたことがありました。
そんな空気の読めないヤカラはさておき、思い出すまま、そんな痛快なボケの数々を羅列しましょう。
昔、一番弟子の東さんに第一子が誕生し、“たけしさん、何かおめでたいコメントをお願いします”といった感じで、ひと言求められた殿はすぐさま、
「東の子? あれ、俺の子だよ!」
と、やはりストーン! と落とし、一瞬でその場の祝福ムードをかき消していました。同じく、タカさんの結婚が決まり、タカさんが、“結婚相手の親父さんは大変まじめな方で、近所の子供を集めては、何か習い事的なことをしている立派な人”といった発言をしている途中、「近所の子供」といったワードに食いついた殿は、瞬時に話を遮ると、
「何? 近所の子供にいたずらしてんのか?」
と、何食わぬ顔でボケをかましていました。
ファンだった頃、そして、弟子になってから今日まで、30年以上にわたり、殿の痛快なこれらのボケを目のあたりにしてきているわたくしですが、今でも“その手のボケ”がさく裂するたびに、心の中で、「出た!!」と、叫んでしまいます。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!