決して少なくない人たちが、いまだに仮設住宅暮らしを余儀なくされている。そんな被災者たちにまで、「悪魔」は手を出していた。
この3年間、東日本大震災に関する取材を続けているジャーナリスト・村上和巳氏が語る。
「福島の中通りなどで、仮設住宅を訪ねると高齢者世帯が多いのですが、その高齢者から、『新しく設置した固定電話の留守電の消し方がわからないから』と、頼まれることがあるんです。それで消す前に留守電の内容を聞いてみると、マンション、金、お墓といった詐欺の売り込みや投資話、先物取引ばかり。電話番号も流出しているんですよね」
弱者に狙いを定めた「悪魔」の正体について、被災地の犯罪事情に詳しい元ヤクザ組織幹部のX氏が解説する。
「以前は、福島でも宮城でも、海寄りの地域でアワビの密猟がけっこうヤクザの資金源になってたんだよ。ところが、震災でセシウムが漏れてからアワビが大きくなって、産地偽装してもバレるそうで、商売にならないって。それで、東電からの賠償金を受け取っている高齢者を狙おうってことになったんだな」
そうした高齢者には息子や娘の家族がいても、土地に残りたい親の世代とは違い、よその土地で暮らしているケースが目立つ。その結果、高齢者と大金だけが仮設住宅に残っているケースも少なくないというのである。
「高齢者でもケータイを持ってるっていうし、その人たちの電話番号を悪いボランティアが集めてくるなんてこともあるようだな。いわゆる振り込め詐欺のパターンで、『墓が壊れちゃって直すから200万~300万円必要なんだ』という形のようだが、被害者の境遇を考えてみろよな。仮設住宅で暮らして、家族とも離れていたりしてるんだ。罪悪感はないのかね」(前出・X氏)
福島県では警察の把握しているかぎりで、「振り込め詐欺」と、それ以外も含めた「なりすまし詐欺」の合計が12年の41件から13年は94件と激増。被害総額は3億円を超えている。宮城県でも73件から131件へ被害は増大し、総額5億5000万円近くまで被害額が上っているのだ。