「ビートたけしの弟子」になると、さまざまな特典が付いてきます。特典1・殿に会える。特典2・殿としゃべれる。そして特典3・北野映画の新作を公開前に観られる。
“たけし原理主義者”であり、圧倒的“北野映画狂”のわたくしにとって、これはかなり大きな特典です。で、その特典にはさらに“観たばかりの映画の感想を、直接北野武監督にお伝えできる”といったオマケまで付いてきます。
映画というジャンルが大好物で、暇に飽かせて年間300本ほど(ほとんどが家のケーブルテレビで)観るわたくしにとって、監督に直接感想を述べられるその行為は、無条件で興奮し、大変テンションの上がる瞬間です。で、殿のほうからも、
「北郷は俺の映画の試写には行ったか?」
と、“観たのなら感想はどうした?”といった具合に、しっかりと求めてきます。そんな時いつも思うのは、〈24まで『失恋』を『しつこい』と読み間違えていた、抜け作なわたくしの感想など聞いて、殿はうれしいのだろうか?〉といった疑問です。が、殿はこちらの気がかりなどお構いなしに、“弟子の感想はとにかく聞きたい”といった感じで、毎回確実に感想を欲しがるのです。ですからわたくしも、試写を観たあとは必ず、すぐに殿に会い、無い頭を振り絞り、熱く感想を述べるのが常です。
殿はそんな時、「何もそんなに絶賛しなくてもいいだろ。気持ちはうれしいけど、金なら貸さないよ」だの、「お前の褒めはどうも怪しいな。何だ、近いうち選挙でも出るのか?」だのと、軽くいなしながらも、
「まー、じゃー今回の映画もそれなりには面白いか?」
と、実に謙虚な発言を漏らしたりいたします。
そんなやりとりも、もう20年近くになるのですが、一度だけ、「龍三と七人の子分たち」の試写を拝見したあと、殿になかなか会えず、試写を観てから感想をお伝えするまで、4日程時間が空いてしまったことがありました。“北郷がすでに試写を観た”といった情報が入っていた殿は、その間、
「おかしいな。北郷のやつ、今回はなかなか感想を言いに来ねーな? あの野郎、もしかして今回の映画気にいってないんじゃねーか」
と、まずはマネージャーにあらぬ疑いを漏らすと、さらに、
「北郷のやつ、きっと今頃、中野あたりの汚い居酒屋で、俺の映画の悪口言ってるな!」
と、終始、“感想を言いに来ないのはオイラの映画が好みじゃないからだ”といった妄想を一人勝手に膨らましては、周囲に漏らしていたそうです。
そんな発言を、殿の付き人から聞いていたわたくしがやっと殿に会い、いつものように興奮気味に熱く、「龍三と七人の子分たち」について感想を述べると、
「どうも、今回のお前は怪しいな。いつもよりヨイショに熱がない!」
と、ばっさり斬り、楽屋をドッと沸かせたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!