つい先日、「そういえばお前、最近白目むかなくなったな。良かったな」と、殿からしみじみと指摘されたことがありました。
説明します。わたくし、今はそうでもないのですが、その昔、“ちょっとしたすべらない話”をする時など、必ず、一番大事なオチの部分になると、無意識に白目をむく、芸人として致命傷になりかねない癖があったのです。そんな“強い癖”を持ち合わせていたわたくしが、北野映画14作目「アキレスと亀」にて、少しばかりセリフのある役を頂いた時には、「お前、セリフしゃべる時、白目むくの気をつけろな。みんなビックリするからよ」と、殿より何度か注意を受けたこともありました。しかし、師匠から、「白目をむくな」と、再三注意を受ける弟子など、きっと、世界でもわたくしだけではないでしょうか。
で、さらに、今はそうでもないのですが、やはりその昔、もう一つ芸人として致命的な、きつ音の癖もあったのです。
普段はそうでもないのですが、緊張する殿の前では、一時期かなり激しく症状が出ていました。一番ひどかった時期は、12年程前、タップダンスの稽古を殿と夜な夜なしていた頃です。当時、わたくしは稽古終わりの鍋当番でしたが、そのメニューの中に、山のように大根おろしを鍋に入れる、真っ白な「雪鍋」といったものがありました。ある日、久しぶりに雪鍋を作ろうと、稽古終わりにスーパーへ食材の買い出しに行こうとしたところ、殿から不意に、
「北郷、今日は何の鍋作るんだ?」
と、急に聞かれてびっくりしたわたくしが、
「だだだだ、大根おろしの雪鍋です」
と答えると、殿は瞬時に、
「お前、大根何本するんだよ!」
と、実に的確なツッコミを炸裂させられたのです。こんな会話もありました。
「北郷、あのほら、仲代達矢さんが出てた、黒澤監督の映画あったろ?」
「らららら乱ですか」
「らららって、ずいぶん楽しそうな映画だな!」
で、時に白目ときつ音が同時に出ることもしばしばで、そんな時、殿は、「お前、今日はずいぶんと忙しいな」と、さらりと言い放つのです。
そんな強い癖を二つ持ちあわせていたわたくしでしたが、先にあげた「アキレスと亀」に出演したあたりから、なぜかすっかりと、どちらの癖も出なくなったのです。すると映画を観たダンカンさんが、「殿、いや~映画面白かったです。あと北郷が意外とよかったですね。役者でいけるんじゃないですか」と、天にも昇るうれしい感想を殿に進言してくれたのです。が、
「北郷は演技以前に白目むく癖あるから心配だったよ。これであと、拾い食いする癖だけ直せばもっといいんだけどな」
と、さすがにそれはない! といった癖を当たり前のように付けたしては、うれしそうにわたくしを見てニヤニヤする、殿なのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!