前回からの続き。07年、殿の付き人を務めていたゾマホンが、故郷アフリカはベナン共和国へ一時帰国することになると、
「だったらよ、お前らもゾマホンと一緒にちょっとアフリカ行ってこい。せっかくだからアフリカ見てこい!」
と、殿のただの思いつきにより、わたくしを含む軍団の若手5名が、ゾマホンと片道32時間をかけ渡航し、深夜2時、何とかベナンに無事到着したのでした。
で、小さな空港を出ると、そこにはゾマホンが03年に建てた「たけし日本語学校」に通う褐色の生徒さん20数名が集まっていて、真っ暗な空港駐車場にて、唄と太鼓と踊りによる歓迎のセレモニーが開催されたのです。ただ、そのセレモニー、2時間を超える大変熱のこもったものだったため、さすがに、“気持ちはうれしいけど、一刻も早くホテルへ連れてってほしい”といった本心を隠しきれず、困惑した表情で、カポエラチックな踊りを見つめるばかりでした。
ベナンでの滞在中は、10日程かけ、くまなく現地を見て回り、トラブルもなく日本へ帰国となったのですが、まだ仕事のあるゾマホンは現地に残るため、まったく旅慣れてない軍団だけでの帰路となり、嫌な予感がすると、その予感は見事に的中。トランジット先のリビアにて、殿の提案で全員が着ていた、ベナンの派手な民族衣装がアダとなり、「お前たち、日本人じゃないな。ミャンマーからの密入国者だろ」と、あらぬ疑いをかけられ、6時間も空港で拘束。最後は日本大使館に泣きつき、なんとか日本へ戻ってきたのでした。
で、わたくし、帰国前日に現地の水をうっかり飲んでしまったため、帰路の間、かつて経験したことのない猛烈な下痢とおう吐に襲われ、30分おきにトイレに駆け込む状態で、やつれまくっての帰国となったのです。
そんなわたくしの体調不良を知る由もない殿の“あいつらひさびさに日本食が食べたいだろう”といったお気づかいのもと、成田到着後すぐに殿が待つ六本木の寿司屋さんへ直行すると、
「北郷さん、ご苦労様でした。今日はどうぞお好きな物を食べてください」
と、コントチックにねぎらいの言葉をもらったのです。が、下痢とおう吐による圧倒的体調不良のため、まったく食欲が沸かず、ただただ辛い顔して、高価な握りを無理してお茶で胃に流し込むのが精一杯であり、そんな姿に気づいた殿は、
「なんだ、お前、寿司苦手か? アフリカ行ってる間にすっかり舌がアフリカになっちまったか?」
と、いつもどおり軽くからかうのでした。
で、そんなアフリカ初体験から半年後、ゾマホンが緊急な用事でまたベナンに帰ることになったのですが、それを知った殿は、
「北郷、お前、アフリカ好きだったろ。またちょっと一緒に行ってこい」
と、信じられないミッションが発動され、わたくし、帰国してわずか半年後に、再度アフリカへ旅立つことになったのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!