安倍首相が大々的に掲げる目玉政策「人づくり革命」。昨年12月に閣議決定し、総額2兆円の予算を計上している。
ところが、国民の評判は芳しくない。FNN(フジニュースネットワーク)が昨年12月中旬に実施した世論調査では、人づくり革命の政策パッケージについて「評価する」が38.8%。対して、「評価しない」が43.6%と上回ったのだ。
「細部は、まだこれから詰めるところもあり、評価が低いのは批判ではなく、わかりにくいということだろう」(安倍首相側近議員)
はたして、本当にそうだろうか。
人づくり革命の主軸となるのが教育の無償化。19年4月には幼児教育の一部で開始し、大学や短大など高等教育の無償化も20年4月から実施するという。家庭が裕福かどうかで、受けられる教育に差が出てはならない。将来を支える人材は、それはそれで社会で育てるという理念は正しい。国民にとっても無償化は喜ばしいことだ。
しかし、課題が多いのも事実だ。無償化の対象の線引きは、議論の最中のため後回し。財源についても、19年に引き上げ予定の消費税の増収分を充てるとしている。だが、それだけでは足りず、財界から3000億円の負担を募るなど、恒久的な財源問題は解決できていない。
何より問題なのは、この政策の本質である。一見すると、子育てを支援し、誰でも等しく教育を受けられる。まさに「社会保障」的な印象があるが‥‥。経産省OBが言う。
「この政策の本質は持続的な経済成長です。成長のためには、労働生産性を上げなければなりません」
労働生産性とは、労働者一人が生み出す成果を数値化したもので、15年の我が国の労働生産性は783万円だ。
「つまり、この労働生産性を向上させるためには人材を育てなければならない。子供たちが等しく無償で教育を受けられるようにして人材を育てる代わりに、そのあと社会で生産活動をして国の経済を支えてくれということなのです」(前出・経産省OB)
また、人づくり革命で進めようとしている高齢者や女性の「リカレント教育」(学び直し)についても、
「人生を充実するためにもう一度学ぶというよりは、再就職のための職業訓練。これも生産性向上のためです」(経産省OB)
老いも若きも日本経済のためにひたすら働けということになる。野党幹部はこう話す。
「安倍政権は『女性活躍』、『1億総活躍』など、たびたび看板を掛け替えてきましたが、どれも中身は一緒です。とにかく国のために生産性を上げるということ。国民ひとりひとりが、自分の人生を豊かに歩めるようにという人間主義的な政策ではないのです。聞こえのいいキャッチフレーズでごまかしているが、本質が透けて見えるから、有権者が評価できないとしているのでしょう」
少子高齢化にストップがかからない中で生産性向上という、かつての高度成長期を夢みるような方向が正しいのか。次代の当事者である自民党2回生など若手議員からも批判が上がる。
「夢のような経済成長はもうない。現実を厳しく見据えて、ダウンサイズの経済政策や社会保障などを考えるべきだ」
この人づくり革命で消費増税分を無償化の財源に回すというプランも、解散前に突然、安倍首相が言いだしたもの。選挙対策のバラマキ感は否めない。人づくり革命の本質を、今月末から始まる通常国会で徹底的に再議論すべきだろう。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。