国民的マンガ「ドラえもん」をはじめ、数々の名作で知られる漫画家・藤子不二雄氏。ところがここ最近、その大御所漫画家の“贋作疑惑品”がネットオークションで出回り、ファンを巻き込んだ騒動となっているのだ。この事態に、藤子氏の弟子が警告を発する。
きっかけは、今年11月に大手オークションサイトに藤子・F・不二雄氏の代表作「ドラえもん」のネーム(セリフ入りの構成下書き)が出品されたことだった。“ドラえもん直筆ネーム本物【お宝発掘】藤子・F・不二雄”と仰々しく銘打たれたその出品作は、一見、ドラえもんやのび太、ジャイアンなど、おなじみのキャラクターが描かれ、ファンならぜひとも手に入れたい垂涎のお宝に見える。
しかし、このお宝には大きな疑問点があるというのだ。
「びっくりしましたね。まず、ハッキリ言って、このネームが本物ではない。僕だけではなく、当時アシスタントとして藤子先生の下で働いていた者なら、すぐにわかるでしょう」
そう証言するのは、「まいっちんぐマチコ先生」で一世を風靡した漫画家・えびはら武司氏。えびはら氏は1970年代に、一ファンとしては初めて藤子不二雄氏に弟子入りし、ドラえもんの黎明期にアシスタントとして最も身近に藤子作品に接していた人物だ。えびはら氏が続ける。
「問題なのは、ネットオークションに出品されることで、偽物を本物と思ってしまう人がいるかもしれないということです。というのも、このネームの描き方は藤子先生と似ているのです。つまり残念ながら、この偽物を描いた人間は藤子先生のそばにいて、ある程度、その仕事ぶりをわかっている人物‥‥ということになります」
なんと、“元身内”が藤子氏の贋作を何の許諾もなく、制作しているというのである。それには根拠があるという。
「確かに下書きの描き方は藤本(弘=藤子・F・不二雄)先生そっくりです。これは本物を見たことがないとわからないでしょうけど、私自身アシスタントをしていたこともあるので、経験的にわかります。今回出品されているのは、いずれも下書き原稿なので、セリフのところは鉛筆になっている。ところが、その字が明らかに藤本先生のものではない。似せて書いたつもりかもしれないけど、実際の先生の字はもっと丸文字です。さらに言えば、この原稿に書かれている字は、当時仕事をしていた、あるアシスタントにそっくりなのです。もちろん、断言はできませんよ。しかし、身内であることは疑いようがありません」
えびはら氏は怒りを隠さない。