大学病院をはじめとした医療機関による医療事故があとを絶たない。
昨年9月には水戸市の水戸済生会総合病院で、拡張型心筋症の手術を受けた茨城県内の女性患者(69)が10倍の量の痛み止め薬を投与され、そのあとに死亡していたことが判明。病院は医療ミスを認め、遺族に謝罪したが、「カテーテル手術を受けていた患者に対し、手術医が痛みを緩和する塩酸モルヒネの投与を看護師に指示する際、『モルヒネ2.5』と伝えたところ、単位を勘違いした看護師が25ミリグラムを投与してしまった。標準使用量は5~10ミリグラムで、医師ら8人も手術室にいたといいますが、誰一人、誤りに気がつかなかったそうです」(全国紙社会部記者)
さらに11月には、愛知県の豊橋市民病院でも死亡事故が露呈した。狭心症の男性患者(当時65歳)を手術した11年12月、医療器具の一部であるワイヤー(直径0.36mミリ)を誤って切断。先端約5センチを冠動脈内に残したことで、男性が転院先で4日後に、急性心筋梗塞のため死亡していたことを発表したのだ。
名古屋大学病院では、ガンを見過ごし、患者が死亡した事実を認め、院長が謝罪。東大病院でも、15年に入院中だった男児に内服薬を取り違えて投与し、死亡させたことを公式サイトで公表している。
特定機能病院や大学病院など、事故の報告義務がある施設などを調査する公益財団法人「日本医療機能評価機構」の報告によれば、16年度の医療事故数は全国1031の医療機関で、過去最多の3882件。うち大学病院などが8割を占めている。
「ただ、この数字は報告義務のある医療機関276施設だけ。全国に約17万9000の医療施設があると考えると、これはあくまでも氷山の一角です」
そう語るのは昨年末、医療事故と医療裁判の知られざる実態を描いた著書「医療事故に『遭わない』『負けない』『諦めない』」(扶桑社)を上梓した、石黒麻利子弁護士だ。医療事故を専門に扱う弁護士のほか、医学博士の顔も持つが、
「医療関係者の立場から患者側の代理人となって、あまりの風景の違いに愕然としました。医療紛争というのはそれくらい複雑で、外からは見えづらい特殊な世界だということです」(石黒氏)
医療事故には過失を伴うもの、つまり明らかなミスがある場合のほか、やむをえない合併症など、道義的責任は認めるものの、法的な責任はないというものがあるが、
「実際にミスがあるケースは1割程度で、残り9割は医師の説明不足など、コミュニケーション不足を生んだ、医師に対する不信感なんです」(石黒氏)
例えば、目の前に危篤状態の患者がいたとしよう。もう助からないことは、医者から見れば一目瞭然だ。にもかかわらず、医師が患者や家族を不憫に思い、つい「大丈夫ですよ」と言ってしまったとしたら‥‥。