なぜ病院側の弁護士は裁判に誘導したがるのか。そこに医療裁判の難しさがあるという。
「ご存じのように、裁判で白黒の判断を下すのは裁判官です。でも裁判官は真実や真相を解明する立場にはない。患者側が過失と因果関係を証明する責任を負い、証明できなければ負ける。それが裁判の仕組みです。裁判官は主張・立証を聞いて、証明できているか、反論ができているかどうかを判断し、勝敗を決めている。完璧に理解していないと、(患者を)勝たせるには至りません。だから専門的であれば専門的であるほど判決文を書きたくないため、和解を勧めるということになるんです」(石黒氏)
病院側の弁護士はそういった仕組みを逆手に取って裁判に持ち込み、結果、医療裁判の大半が患者側の敗訴という形で幕を閉じることになるのだ。
だからこそ、患者は弁護士選びにも細心の注意を払わなくてはいけない。石黒氏が伝授する「危ない弁護士」の特徴は次の4つ。
【1】自分(患者)より医学知識がない
【2】不必要な証拠保全をする
【3】協力医がいない
【4】いきなり提訴する
「本来、医療相談を受けても医療ミスがない場合、法的責任追及はできないとはっきり伝えるべきですが、弁護士の中には、実際には医療ミスがないのに受任して証拠保全や提訴をするケースが多く、それにより、患者さんや遺族は無用な紛争で時間とお金をムダにすることになります。医療ミスにあったあと、さらに弁護ミスにあうなんて、やりきれない話です」
さらに、ドラマなどではよく「損害賠償1億円を請求してやる!」といったシーンが登場するが、実は損害賠償額には基準があるのだとか。
「交通事故では年齢や通院日数などで誰が計算しても大きく外れない金額があります。医療事故の場合も、過失も因果関係も争わない場合は保険会社と患者だけの関係になるため、示談で標準額が提示されているのに不服として裁判をやっても、支払われるのは同じ金額か、それ以下になります。ですから、過失も因果関係も争わずまとまるものは、裁判をやらないほうがむしろ患者さん側のメリットは大きいんです」
そんな裏事情も知らず、弁護士に言われるがままに時間と金を遣い、振り回されたあげく、心身ともにクタクタになったのでは目も当てられない。
「確かに悪い医者、悪い看護師、悪い弁護士の見分け方は難しい。だからこそ、自分でできるだけ情報を入手し、積極的に当事者として関わっていくことで防ぐしかない。医者任せ、看護師任せ、弁護士任せにすれば、間違いなく不幸になります。まずは医者が偉いとか、弁護士が偉いとか、そういう感覚を捨てることから始めてください」
自分の身は自分で守る。それが唯一の医療事故防止策なのかもしれない。