「当然、患者さんの家族は『回復するんじゃないか』と誤解します。でも、医師の言った『大丈夫』の意味は、『とりあえず蘇生した』という意味。そのため患者さんが亡くなった時、家族は『医療事故だ』と認識してしまうんです」(石黒氏)
こうした医師のコミュニケーション不足も「医療ミス」という言葉を一人歩きさせ、複雑化させる要因だという。
一方で、明らかに過失が認められるケースもある。
「よくあるのが手術部位の取り違えです。以前、左右の腎臓を取り違えて摘出され、死亡した患者さんのご遺族から依頼を受けたことがあります。通常、手術前には部位にマジックで印をつけるのですが、それを忘れ、さらにCTのフィルムを裏表逆に貼ってしまったことで、逆の腎臓を摘出してしまった。これも手術室にいた誰もが気がつかなかった単純ミスです」(石黒氏)
また、大きな外科手術ができない病院では手術を他の病院に依頼するケースがあるが、施設間のコミュニケーション不足から、医療ミスが起こることも多い。
「すでに病理検査も終わっていて『手術適用だと思いますので、よろしくお願いします』と記載されているので、診断もついているし、切っても大丈夫、と医師が思い込んでしまうケース。私が担当した事件でも、ガンを疑う所見がゼロだったにもかかわらず、直腸切断術をやってしまったという事故がありました」(石黒氏)
他にも、大腸に入れるはずのバリウムを骨盤内に注入され、直腸切除と人工肛門造設手術を受けざるをえなくなった50代男性や、誤診から夜間救急受診の翌朝に急性心筋梗塞で死亡した50代男性の事件など、石黒氏は数多くの医療事件を担当。
「それら医療事故の多くが、思い込みや単純ミスによるものです。医師も人間である以上、ついうっかり、ということはあるかもしれない。ただ、医療関係者による単純ミスは即患者さんの命を危険にさらします。医療に携わる者はそのことを肝に銘じなくてはならないのです」(石黒氏)
そこで、「危ない医師」を見分ける方法だが、
「診察中パソコンに向き合っていて一度も患者と目を合わせず、体にも触れない医師がいますが、こんな医師に患者さんの体の状態がわかるはずはありません。また、セカンドオピニオンを受けたいと紹介状を請求しても『結果は同じですよ!』などと言って受けさせない医師も要注意。逆に回復の見込みが乏しいのに『大丈夫ですよ』を連発する医師も、患者さんの容体が急変した際には、その言葉が患者さんの家族との間でトラブルの原因を作ってしまうため、危険です」(石黒氏)