「日本人の3人に1人が悩んでいる」と言われるのが肛門の疾患です。特に痔は現代病の一種と言っても過言ではないでしょう。辛い刺激物を食べたり、長時間座りっぱなし、冷えやストレスで血流が悪くなる、酒やたばこなど、さまざまな理由で表れます。
代表的な症状としては、肛門に強い負担がかかる痔核=いぼ痔、慢性の便秘で硬い便を排泄した時に肛門が切れる裂肛=きれ痔、肛門から細菌が入ってウミがたまり、肛門内部にそのウミが出て管ができる痔瘻=あな痔の3種類が代表的です。中でも肛門周辺に静脈瘤(いぼ)ができるいぼ痔が最も患者数が多いそうです。痔による出血は、多くの場合、いぼ痔が原因となり、静脈瘤が内側にあれば内痔核、外側なら外痔核となります。
痔と並んで多い症状として脱肛があげられます。こちらは肛門の筋肉が緩み、直腸の下部分の粘膜が肛門の外に出てしまいます。では、痔と脱肛ではより重篤な病気はどちらでしょう。
痔の治療方法はいくらでもあります。きれ痔は塗り薬や座薬で、いぼ痔も塗り薬や座薬、生活習慣の改善で治せます。大出血を起こすか、痛くて排便できないケースを除くと、手術の必要もありません。ただし、何度も出血する場合は痔ではなく大腸ガンの可能性があるので、念のため医師に診てもらってください。
肛門周辺が熱感や鈍痛、かゆみや異物感を感じて膿が出るあな痔も、市販薬こそありませんが病院で診察すれば必ず治ります。あな痔は下痢症の方がなりやすい症状でもありますので、下痢症の方は腸内環境を整えるようにしてください。
生活環境の変化で、痔の患者は減りつつあります。今では洋式便所はおろかウオシュレットの普及で、肛門から出血することが少なくなりました。
一方、脱肛は肛門の筋肉が緩んでいる状態を指します。脱肛とは肛門内の内痔核が原因となりますが、そもそも内痔核ができる主要因は便秘です。便秘になると、肛門にかかる排便時の力みが通常の数倍にも及びます。肛門に圧力がかかることで縮んだ粘膜が広がり、腹圧により縮み、さらに伸びるという動きを繰り返しているうちに、うっ血することで内痔核ができ、その内痔核が垂れ下がって脱肛となります。
内痔核の症状は、【1】排便時に出血は起こるが、イボは外に出ない【2】排便時にイボは外に出るが、自然ともとに戻る【3】イボが外に出たら指で押し戻さねばならない【4】イボが常に外に出てもとに戻らない、の4つに大別されます。
脱肛になると腸の粘膜が外に出て炎症を起こしやすくなります。悪化すると、直腸が肛門から飛び出る「脱腸」となるなど、症状が重くなる可能性がある分、痔よりも脱肛のほうが重篤だと言えます。
症状が軽い場合、肛門の外に出ている粘膜に軟膏を塗ったり座薬を入れて自力で戻すことができます。症状が重ければ手術による内痔核切除や、痔核への血流を阻害して痔核を小さく固める方法、脱肛部分を肛門内に戻すPPH法、内痔核に輪ゴムをかけて内痔核を壊死させる輪ゴム療法などがあります。加齢による肛門括約筋の衰えも原因であるため、再発の可能性も高く、その際は主要因である便秘を治すことが脱肛治療の早道となります。
また、肛門の括約筋を鍛えるのも脱肛防止につながります。肛門を2秒ほど強く締め、10秒ほど長く締める動きを、毎日5分間行うと、半年ほどで効果が表れてきます。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。