自民党には火山噴火予知・対策推進議員連盟がある。同議連メンバーである自民党議員が言う。
「熱心なのは選挙区に火山を抱える議員ぐらいで、政府や国会では火山への対応が決定的に遅れている」
まさに、本白根山(群馬県)の噴火で犠牲者が出たことは、噴火対応の遅れを如実に物語っている。草津国際スキー場に噴石が落下。訓練中の陸上自衛隊陸曹長が死亡し、隊員とスキー客の計11人が重軽傷を負った。4年前の58人が犠牲となった御嶽山噴火。「その反省は生かされたのか」と問えば、「残念ながら‥‥」(前出・自民党議員)という答えが返ってきた。
日本は火山国でありながら、国民の知識、噴火への備えが足りていない。かくいう私もそうだった。
91年、長崎県の雲仙普賢岳が噴火。火砕流が発生して43人が亡くなった。記者として取材に当たったが、当時は専門記者以外のマスコミは、おおむね不勉強。火砕流という言葉すら知らなかった。それは政府も同様で、十分な警戒態勢が敷かれていたとは思えなかった。取材時に、火山研究者の九州大学・太田一也教授(当時)が、「噴火予知研究の予算もない」とこぼしていたことを、昨日のことのように思い出す。
この間、政治はいったい何をやってきたのか──。
雲仙以降、多くの火山噴火予知連の研究者、気象庁関係者を取材してきた。その経験から、今回の噴火の背景にある三つの問題点を指摘したい。
一つは、火山噴火予知という学問が発展途上であるということ。今回の噴火の場所も「前回の噴火は3000年前」などと言われるように、過去のデータが不足している。今後は大学の学部新設などのハード面だけでなく研究者育成にも、政府が本気になって支援していかなければならない。
二つ目は、国の火山対策に関する予算が少ないという点だ。地震に比べると規模が小さいうえに、各省庁がバラバラに予算を計上し、使いみちにも統一性がない。本白根山の噴火場所に監視カメラがなかったというが、それは「欲しいところにカメラを全部設置する予算がない」(気象庁幹部)ということだ。
そして最後は、行政組織が脆弱極まりないということだ。現在、火山については気象庁の所管だが、とりあえず火山噴火予知連という学者や内閣府、国交省河川局、その他関係者が参加する組織を設置しているものの、我が国に一元化した火山に関する行政組織があるわけではない。ある火山学者がこう指摘する。
「イタリアやフィリピンなど、火山国はいわゆる火山庁のような組織を設置しています。専門的に研究、調査、さらには予測も行う。当然、予算も一元化されており、避難命令も長官が責任を持って発することになっている。日本は火山国でこれだけ犠牲者も出していながら、こうした行政の体制作りに取り組んでいない。これは政治の責任です。必ずどこかの火山が突然、噴火するわけですから、このままでは犠牲者が出て、同じ批判が繰り返されるだけです」
なぜ政府の取り組みに積極性が足りないのか。自民党ベテラン議員が嘆く。
「票や利権につながらないからですよ。何百年に一度あるかないかの火山問題を一生懸命やっても票になるわけではない。予算も少ないから関連業者にうまみもなければ、広がりもない」
まさに政治の怠慢だ。そろそろ本腰を入れて、日本は火山と向き合わねばならないことを、新春早々から露呈したのだ。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。