社会

秋津壽男“どっち?”の健康学「年を重ねるごとに悩まされる運動不足の解消法。スクワットと腹筋ではどちらが必要な運動?」

 健康で長生きするために運動をする高齢者は少なくないでしょう。体を動かすことで体力や持久力が身につくばかりか、心肺機能も鍛えられます。1日30分ほど運動している人は、喫煙者が禁煙をするのと同じぐらい有益であると言われています。一説では、30分の運動を週6日行うと死亡率が40%も減少するという研究結果もあるほど。高齢者にとって運動は、老化防止に最適なのです。

 では、ここで問題です。健康維持に効果があるのは、腹筋とスクワットではどちらがより適しているでしょうか。

 腹周りや腰周りの筋肉を鍛える腹筋は便秘改善にも役立ち、腹式呼吸も上手にできるようになります。

 一方、足の筋肉を鍛えるスクワットは心機能の改善にも効果があります。体の中でいちばん大きな筋肉である太腿(大腿四頭筋)を鍛えるのと同時に、太腿の下にあるふくらはぎ(下腿三頭筋)にも効果を与えます。特にふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれています。人間の下半身には血液の7割が集まっており、足腰に滞りやすい血液を、重力に逆らってポンプのように心臓へ送り返す役割を果たしています。ふくらはぎの筋肉の収縮により血液は心臓に戻されるわけですが、ふくらはぎの筋肉が衰えると、筋肉が収縮しにくくなり、下半身の血液が心臓へ戻りにくくなります。すると足がむくんだり体調を悪化させます。

 こうした症状を防止して健康を維持する点で、スクワットのほうが効果的だと言えます。

 また、近年では健康年齢を考えるうえで、ロコモ・シンドロームも注目されています。いくら上半身が元気でも下半身が衰退してしまうと移動することが面倒になってしまい、出不精になることも。そうなると周囲とのコミュニケーションが取れなくなり、認知症のリスクが高まる結果にもなりかねません。つまり、腹筋よりスクワットで下半身を鍛えることのほうが、生活面でも重要となります。

 ただ、下半身だけのトレーニングと思われがちなスクワットですが、背中や腕の筋肉まで刺激する全身トレーニングです。筋肉量を増やす運動と考えた際、腹筋500回はスクワット15回に相当するとも言われています。高いエネルギーを要して脂肪が燃焼された結果、足全体が引き締まり、スタイルもよくなるなど、スクワットにはダイエット効果もあります。

「放浪記」で2000回もの公演を行った故・森光子さんは、ホテルの部屋でスクワットを欠かさなかったそうです。90歳を超えても朝夕にスクワットを70回ずつ行ったことを健康の秘訣としてあげていたのも有名なエピソードです。

 ではここで、スクワットの方法を簡単にレクチャーしましょう。

 腰を落として膝を曲げた基本姿勢から、息を吸いながら地面と太腿が平行になるまで上体を下げてください。次に、息を吐きながら膝が伸びきらない程度に立ち上がります。これを20回から40回ほど繰り返し、余裕があれば1分ほどのインターバルを設けて、もう1セット行ってみましょう。きついな、と感じた場合、最初は椅子から立ち上がる動作を繰り返すだけでも効果的です。

 ただし、運動不足の人がいきなり激しい運動をすると、思いもよらぬ事態やケガを招くことがあります。過去に心筋梗塞を起こしていたり、高血圧だったり、体力が低下していたり、ふだんからふらつく人などの場合、近くのコンビニへ買い物に行くなど、無理せずにまずは歩くことから始めてください。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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