来年4月に実施される今上天皇の譲位と5月の新天皇即位──。こうした慶事に際して実施されることの一つに「恩赦」がある。実は恩赦のシステムや実態は厚いベールに包まれ、一般にはうかがい知れない。現在、確定死刑囚は122人。恩赦によってシャバに戻ることはあるのか。
恩赦の意味を広辞苑で調べてみると、〈行政権によって犯罪者に対して刑罰権の全部または一部を消滅させる処分〉とある。
すなわち、裁判で確定した刑罰を特別な恩典によって許し、または軽くすること、である。これは内閣が決定し、天皇が認証する制度だ。
罪を犯して服役している人を無罪放免にしたり、減刑したり、いくらかの資格停止を解除することを恩赦というのだ。
恩赦は恩赦法によって規定されているが、大きく「政令恩赦」と「個別恩赦」に分かれている。さらに細かく見ていくと、大赦、特赦、減刑、刑の執行免除、復権の5つがあり、全てひっくるめて恩赦と呼んでいる。
先頃出版された「恩赦と死刑囚」(洋泉社)の著者であるノンフィクション作家の斎藤充功氏が言う。
「恩赦とは、天皇の戦前の大権を制度として残したものです。慈悲によって罪を赦(ゆる)すのですから、現憲法の下ではいささか奇異に感じる市民も少なくないかもしれない。戦後12回の恩赦が行われ、死刑囚で恩赦になったのは14名ともそれ以上とも言われています。私が調べたところでは7名でしたが、はっきりしない。恩赦は法務省所管の中央更生保護審査会で決められるのですが、厚いベールに包まれて実態は詳しくわからないんです」
では、恩赦の対象になるのは、どのような罪を犯した人なのか。
サンフランシスコ平和条約締結恩赦(1952年)では大赦令、減刑令、復権令が出され、殺人および尊属殺人の死刑囚も減刑された。52年4月以前に禁固以上の刑に処せられた者が対象者となったが、強盗、準強盗、強盗致傷、強盗強姦、同未遂、麻薬、建造物放火、同未遂、通貨偽造行使、同未遂、直系尊属傷害同致死などは適用にならなかったのである。
明治100年記念恩赦の個別恩赦では、選挙違反関係者が75.9%を占めていた。昭和天皇崩御の際の天皇大喪恩赦では、道交法、軽犯罪法、外国人登録法、食糧管理法など17の刑罰が対象となったが、殺人、放火、強盗などの凶悪犯は除外されている。
このように、時代背景が変わると、恩赦の対象となる犯罪も凶悪犯は避けるなど、様変わりしてきたことがわかる。
そうしてみると、来春に実施されるであろう恩赦において、凶悪犯、例えば死刑囚も含まれるのかは気になるところだ。
恩赦を巡っては、時には駆け引きが行われ、予想外の事態になるケースも出てきている。天皇大喪恩赦では、恩赦に期待して控訴を取り下げた保険金殺人の夫婦がいたのである。