同社にとって細木氏とは、「足を向けては寝られない、多大な利益をもたらす“大先生”だった」と、数年前に退職した元社員が回想する。
「本は出せば売れるので、発売直後には社員だけでなくアルバイトにも大入り袋に入った“臨時ボーナス”が支給されていました。“細木マネー”で、全員無料の社員旅行にも何度も行きましたね。もちろん海外で、ハワイやラスベガス、オーストラリアなどでした。一時期、細木さんが持て余した“持ちマンション”が社員寮になっていたこともありましたよ。都内の一等地で、3~4人の社員が6LDKくらいの部屋で共同生活をしていました。玄関は大理石で、風呂が2つあったらしいです」
それだけの恩恵があったからこそ、同社は「細木氏の意向には全面同意、絶対服従の関係性だった」とも。例えば著書には毎年、新たに撮影された近影が載せられるが、それだけで一大イベントである。
「用意する衣装は一度で50着以上。あとであがりを見て『いいのがなかったわね』と同じ量の別衣装を用意して、再撮影したこともありました。要求を全て満たすために、1年度分の同シリーズには2億円もの経費が使われていたそうです。担当者が現場につきあわされたテレビの撮影で、細木さんが作った“テイ”のカレーライスを『おいしいわね。みんなに同じものを食べさせたいから、あと30人分用意しなさい!』と言われ、調理スタッフが作って出したら、『何やってんの、器も同じにしなさいよ!』と激高され、問屋街まで行って同じ皿を買うのを手伝った、という話も聞きました。一部の社員は『細木天皇』と皮肉っていましたよ」(前出・元社員)
しかし、多少のムチャ振り程度ならば笑い話にもなるが、会社の利益の生命線となる本の版権引き上げとなれば、話は別だ。社内には、「この決定は最初から仕組まれていたものだ」と断言する向きもあるという。
「これまで毎年正月に、担当者が細木さんの自宅に新年の挨拶にうかがう“細木詣で”があったのですが、今年は栗原前社長から直々に『私が行くから来なくていい』と言われたそうなのです。退陣を見越し、利益保持のために版権を持ち逃げし、他社に売り飛ばす算段をつけていたとしても、まったく不思議ではありません」(別の中堅社員)
もし事実であれば、前社長一派と細木氏、そして優良コンテンツをあっさり手放しても会社の含み資産を切り売りすれば儲けが出る新社長という三者による“談合”が事前になされていた推測も成り立ち、社内では「細木さんは京都の豪邸に雲隠れしている」との憶測が飛び交っているという。
真意をうかがうべく、細木氏の事務所に事実確認の質問状を送ったが、期日までに回答はなかった。記者が直接事務所に出向き駐在のスタッフに尋ねるも、
「その件についてわかる者がいない。連絡も取れない。細木先生も現在は東京にはおらず、自分がどこにいるかお答えはできない」
と、けんもほろろの対応だった。
現状で傷を負っているのは、職場存続の不安におびえる老舗出版社の社員のみ。細木氏が疑惑に対し、「ズバリ言うわよ!」と説明する機会は訪れるのか。