高田芳雄さん(77)=仮名=のガン克服は、今までの人たちとは大きく違う。彼はまったく何もしない“治療法”を選んだのだ。
01年5月、60歳の時に病院の針生検(針を用いて体液や組織を採取)で前立腺ガンと診断された。そして、すぐ手術を受けなければ寿命が縮まると脅され、悩んだ。そんな高田さんに、やはり前立腺ガンを患っている友人が一冊の本を渡したのだ。96年に発売され一大センセーションを起こした現「近藤誠がん研究所」所長が書いた「患者よ、がんと闘うな」(文藝春秋)だった。
「先生と話した結果、当面は様子を見るだけにしようということになり、何も治療は受けませんでした」(高田さん)
すると5年後、肺ガンも見つかったのである。それまで高田さんは、近藤先生のもとに半年に一度のペースで通い、受診していた。
「先生は最初のものを前立腺ガンではなく、ガンもどきだと言う。『では、肺ガンについては前立腺ガンの転移では?』と尋ねたんです。すると初発性の肺ガンだと言うんです。やはり、何もしないで様子を見ることにしました。現在、肺活量は5500cc、週に1回、区民プールで1000メートル泳いでいる。それができるのも手術を拒否し、無治療のまま様子を見ているからです。手術を受けなくて本当によかったと思っています」
しかし、ガンと宣告されて何もしない、ただ自然に身を任せる、というのは特異な例ではないだろうか。高田さんが受けたものを「放置療法」と呼ぶ、近藤氏が語る。
「私の経験から、抗ガン剤治療や手術、放射線の治療に大きな疑問を持つようになった。従来の療法が患者を苦しめ、あまつさえ命を縮めてしまうこともある。全てのガンを放置するわけではない。苦痛などの症状があって、日常生活の質(QOL)が低下している場合には、私のほうから治療を勧めることもある。全てのガンは本物のガンか、ガンもどきのどちらかに属し、本物は初発ガン発見のはるか以前に転移している。もどきは放置しても初発巣から転移が生じない。どのようにしたら患者が生活の質を落とさず、苦しまず、最も長生きできるだろうか。その観点から無理や矛盾のない診療方針を考えた結果がガン放置療法なんです」
人間の体は千差万別。絶対的なマニュアルがないのも事実だが、ガンの最終ステージから生還した人たちの体験談から勇気と元気をもらえたのではないだろうか。