群像劇ではなく、男2人を主役としたバディ作品の先駆け! それが、松崎しげる(68)が国広富之と組んだ「噂の刑事トミーとマツ」(79~82年、TBS系)だった。
── 歌手としては「愛のメモリー」など数々のヒット曲がありますが、俳優としては、これがドラマ初主演。
松崎 映画で「その後の仁義なき戦い」(79年、東映)をやって、これが2本目になるね。昔から仲のいい西田敏行に相談したら「いいから何でもやれ」って、福島なまりで背中を押されて(笑)。
── 当時、TBSで放映されていた「刑事スタスキー&ハッチ」の日本版という宣伝でしたが。
松崎 確かにアメリカの男2人のポリスマン・ストーリーを下敷きにしているけど、それだけじゃなくて「超人ハルク」も入れて、ギュッと詰めている。
── ああ、確かにトミーもマツも「超人」に変身しますね。気弱なトミーにマツが「お前なんか男じゃない、女男で十分だ。おとこおんなのトミコ!」と罵倒すると、とたんにハルクばりに変身(笑)。
松崎 昔、E・H・エリックさんという人が耳をピクピク動かしていて、あんな感じにしようと後ろから針金で動かしていた。そのうち国広君は、自力でピクピク動かせるようになったんだから、大した役者だよ。
── 逆にマツが「おとこおんなのマツコ!」と罵倒され、変身するケースも。
松崎 髪をボサボサにして、みんなにタバコの煙を頭にかけてもらって、それで煙が出ているみたいにして撮っていたね。
── 本来は「噂の刑事」だけだったのが、松崎さんのアイデアで「トミーとマツ」まで正式タイトルに。今の話をうかがっても、現場のアドリブが多かったかと思います。
松崎 当初は警視庁管理官役の石立鉄男さんに「ルールを守れよ」って怒られてた。でもそのうち、石立さんも「お前は本当にやりたい放題だな」って、あきれられながらも好きにやらせてもらえて。
── これまでの刑事ドラマにない大暴走のノリで、三振かホームランかという感じだったんでしょうね。
松崎 そうだね、暗中模索だったけど、いつしか視聴率で裏の「銭形平次」(フジテレビ系)を抜いて。僕も見ていた国民的な番組を抜くなんて信じられなかった。
── 数字が上がって放映回数も延長を重ね、そうなると現場の熱気もさらに高くなっていきましたか?
松崎 大映ドラマだから同じ撮影所の僕らはBスタで撮っていて、Aスタは百恵ちゃんの「赤いシリーズ」だった。向こうはシリアスだからシーンとしているけど、こっちはどんちゃん騒ぎ。しかも声がデカいから、こっちの声がAスタまで響くって怒られた(笑)。
── パート2まで作られたほどの名コンビであるトミーはいかがでした?
松崎 彼は殺陣をやるのでもJACに行ってちゃんと練習してくるし、僕のアドリブにもすぐ応じてくれたし。すばらしかったですよ。
── のちの「あぶない刑事」や「相棒」など、バディ作品の流れを作ったとも評価されています。
松崎 いや、向こうは渋くてかっこいいから。こっちは変顔はするし、俺のシークレットブーツは「世界一カカトの高い靴の男」だし、まるで別世界(笑)。歌の仕事と並行するのはスケジュールが大変だったけど、とにかく楽しかった。真冬に池に放り込まれたり、土の中に埋められたりで歯がガチガチ鳴ってるけど、それさえも若さの勢いで楽しかったね。