16年の大河ドラマ「真田丸」で再ブレイクした草刈正雄(65)の初主演ドラマは、その名も「華麗なる刑事」(77年、フジテレビ系)である。田中邦衛との対照的なコンビは、刑事ドラマ界に一石を投じた。
ロサンゼルス市警で研修を受け、語学堪能で運動能力も抜群。さらに甘いマスクを持つ「ロス」こと高村一平刑事。当時、日本を代表する二枚目で売り出していた草刈への“当て書き”と呼べるキャラクター設定である。
「初主演という緊張はありましたが、それ以上に大好きな俳優さんである田中邦衛さんと共演できること。これに舞い上がっていましたね」
田中は44歳独身で、射撃の腕前はオリンピック級ながら、強い鹿児島なまりが印象的な「ゴローさん」こと南郷五郎の役。
「僕はロス帰りのエリートですから、徹頭徹尾カッコよくという設定。邦衛さんの土着的な役柄との対比を狙っていたのですが、僕の芝居が邦衛さんにどんどん似てきて。プロデューサーは泣いてました(笑)」
近年の「真田丸」などでも、草刈のコミカルでクセのある演技は高く評価されているが、それは二枚目時代からの悲願であった。
「あの頃、例えば萩原健一さんと水谷豊さんの『傷だらけの天使』(日本テレビ系)でも、どこか“変化球”のお芝居をされてたじゃないですか。あの雰囲気にすごく憧れてて、それが自分の演技にも反映されていった形です」
初主演である草刈を盛り立てるため、邦衛の他にも沢たまき、佐野浅夫、岸田森ら実力派のベテランが脇を固めた。さらに──、
「途中から梶芽衣子さんが女刑事役で何度か参加されたんですよ。やはり、あの目力もあって、ビシッと引き締まる感じがしました」
草刈が演じた高村刑事は、映画「ダーティハリー」の影響を受けている。愛用の銃も映画と同じ「S&WM29(マグナム44)」で、世界最強のハンドガンと呼ばれた。撃った際の反動も強いため、アメリカで本物の銃を使っての射撃訓練も受けたという。
「全32話という長丁場を初めて経験したこともあって、スタッフやキャストと家族づきあいのようになり、とにかく現場に行くのが楽しかったですね。当時、国際放映のスタジオは、あちこちで刑事ドラマの撮影をやっていたんですよ。その盛り上がりが相乗効果となり、いい雰囲気を生んでいました」
草刈は歌手としても並行して活動しており、本作のエンディングテーマ「センチメンタル・シティー」も自身の歌唱による。都会的なタッチの名曲で、劇中ではカラオケスナックで歌うシーンもあった。
「主題歌を歌えたこともうれしかったし、あの歌はプライベートでもカラオケでよく歌うほど好きな曲でした。そうしたことも含めて、新しい経験ばかりでした」
ここで演じた「ロスこと高村一平」は、意外な形でよみがえる。宮崎あおいや堀北真希ら新人女優の登竜門と呼ばれた「ケータイ刑事 銭形シリーズ」(04~07年、BS-i)で、女子高生刑事に翻弄される同名の刑事役をユニークに演じた。それは、まさに「華麗なる復活」であった──。