前回書いた女子レスリング界の「パワハラ告発問題」の影響を受け‥‥というわけではないだろうが、貴乃花親方も内閣府の公益認定等委員会に告発状を提出した。元横綱日馬富士による暴行事件の調査や、自らの理事解任について、日本相撲協会への立ち入り調査や是正措置を求めたものだ。
日本レスリング協会も日本相撲協会も公益財団法人。その公益性の有無を認定するのが内閣府の公益認定等委員会だから、レスリング協会や相撲協会の直接的な監督官庁としては文部科学省及びスポーツ庁が存在しているが、公益性に反する疑いがあるところから内閣府の委員会への告訴状となったわけだ。
これに対して、内閣府の委員会がどのような対応をし、どんな判定や処分を下すのかはさておき、ここで問題にされるのは、組織のガバナンスの問題である。
ガバナンスという言葉は最近よく聞くが、政府や企業、各種団体の組織を「統治運営する」ことを指す。
より良い統治運営をするためには、どんな組織形態を構築し、どんな人材をどのように配置するか。そのような組織のあらゆる運営、監査等を円滑に行えるようなシステムを構築しなければならない。
そのガバナンスで、レスリング協会と相撲協会には共通した「欠陥」が存在していると言わざるを得ない。
それは組織を構築し、運営する人物と、現場の実際の仕事(選手の育成や試合のコーチなど)を行う人物が重複していることだ。
相撲協会のトップは八角理事長だが、彼は八角部屋の親方(師匠)でもあり、自分の部屋の弟子を育てる仕事もしている。彼だけではなく理事に選任された人物もすべて親方で、それぞれ自分の部屋の弟子を育てることも重要な仕事だ。
相撲協会というのは、部屋の集合体であり、各部屋の運営事情に精通している人物が部屋の集合体である協会を運営することにはメリットもあるだろう。が、そこには当然マイナス面も存在し、協会の理事が自分の部屋の利害を協会の運営に持ち込むケースが生じないとは言えない。
サッカーのJリーグは、最近では各クラブの事情に精通した長のなかからチェアマンが選ばれることも多い。が、そのときは各クラブの役職を離れてチェアマンに専念することになっている。ならば相撲協会も、理事長に選ばれた人物(八角親方)は自分の部屋(八角部屋)の仕事から離れ、相撲協会の組織運営に専念すべきだろう。
レスリング協会にも同様のことが言える。特定の組織(大学やクラブ)に所属していたり、そこで指導を行っている人物が、レスリング協会の選手強化本部長に就任すれば、自分の所属している組織の選手が有利になる(他の組織の選手が不利になる)ような行動に出ることが考えられる。
至学館大学で多くの女子レスラーを育て、多くの五輪メダリストを輩出した栄和人コーチが、日本レスリング協会の強化本部長に就任したのなら、その時点で自らは至学館という特定の組織を離れ、日本のレスリング界全体を見渡し、全体のレベルアップを考える立場に立ち、それを推進する仕事をするべきだろう。
日本のスポーツ界では、選手を育てたり、試合での戦術を指導する現場の人物(監督やコーチ)が、組織の運営にも携わるケースが少なくない。
先にJリーグの例で示したように、現場(チームや選手)の事情を熟知し、精通している人物が、全体の組織(リーグ)の運営を行うのはメリットがある。が、自分の組織(チーム)を離れないで相撲界やレスリング界全体の運営に着手するのは、それだけで「パワハラ」になる可能性が大いにある。相撲界もレスリング界も、そのことに気づき、組織改革を行うべきだろう。
玉木正之