そんな岡本の強いハートについて、実は松井氏も2年前の時点で見抜き、スーパースターになる素質を確信していたという。
「和真を相手に宮崎キャンプでマンツーマン特訓を終えたあと、松井さんは親しい人に対し、『時期はまだ先になるかもしれないけど、そのうち彼は必ず伸びるよ。才能を開花させるだけの気持ちの強さがある。この世界でいちばん大事なのはハート』と感心しながら予言していた。当時から和真の素質にホレ込んでいたんです。有力チームOBたちからは『未完の大器は結局、未完のまま終わる』なんて見切りをつけようとする声も出ていましたが、松井さんだけは、当時から太鼓判を押していました。2年ぶりに臨時コーチを務めた今春も、真っ先に和真のもとへ足を運んでいた」(チームスタッフ)
松井氏からお墨付きを得た16年、岡本はファームでは打ちまくった。ファーム日本選手権でも主砲としてチームを21年ぶりの日本一に導いてMVPに輝いている。同年オフにはプエルトリコのウインターリーグへ派遣され、ハングリーな選手たちの気持ちの強さに大きな刺激を受け、松井氏も絶賛した豪放な性格にさらなる磨きをかけた。
いよいよ1軍での活躍が期待されたプロ3年目の17年シーズン。素質を認めた主砲・阿部慎之助(39)が手を差し伸べた。この年の春季キャンプは松井氏が不在。代わって阿部が岡本に打撃に関する助言を送り、「こんな軽いヤツを使っているのか。そうじゃなくて、これで打ってみろよ」と手渡したのは、みずから使用する重量バットだった。
岡本が使用するバットは約900グラムで、阿部のものは約930グラム。譲り受けた当初は「重心が先にあるからよけいに重いし、振り負けないようにしたい」と懸命になって「阿部バット」を振る姿が確認できたという。ところが‥‥。前出のチームスタッフが苦笑いしながら、顛末を説明する。
「阿部の重量バットが、結局は自分にフィットしなかったんです。数日間だけ適当に振ったあとに『めちゃ重いし、アレじゃ打てない』と言って、それっきり。譲り受けた『慎之助』のネーム入りバットは場所を移した那覇キャンプ中、宿舎から持って来てはいましたが、いつも使わないで放置されていた。普通は怖い大先輩からもらったバットなら無理してでも使いそうですが、和真はそんなことなどおかまいなしで気にするそぶりも見せなかった。やっぱりアイツはいい意味で我が強く、自分を大切にする男なんですよ。阿部を大先輩として敬うことはあっても、媚びるようなマネだけは絶対にしたくないというのが和真の本心。『自分には合わないんだから、しょうがない』と事実上のポイ捨て状態だったバットは、最後に阿部が『なんだよ、いらねえのかよ』と言いながら寂しげに回収していました」
ちなみに、ちょうどこの時期、番記者から「『阿部二世』として早くチームの主砲になる日が来ることをファンも期待していると思うが?」と問われた時のこと。
「すると岡本は、目を見開きながら『自分は“阿部二世”ではなく“岡本一世”と呼ばれるようになりたいんで』と、やや強い口調で反論したことがありました。思えば、その阿部と1年後に開幕で一塁スタメンの座を争ってベンチへと追いやったのだから、当時から岡本には、いつか追いつき、追い抜く、という強い思いがあったのでしょう」(スポーツ紙デスク)