イチローの「会長付特別補佐」就任を事実上の引退と見る向きは強い。チームに帯同し、一緒に練習はするが、試合出場はできない…。「来季、日本で開催されるマリナーズの開幕戦を見据えて、イチローを引き止めたのではないか?」との見方もされているが、球団が苦慮を重ねていたのは本当のようだ。
「マ軍にはフランチャイズスターの晩節を汚したトラウマがありますから」(米国人ライター)
メジャーリーグでは一流プレーヤーが古巣球団に戻ってきて、そこで引退するというパターンも定着している。
2008年オフのことだ。マリナーズはケン・グリフィーJr.を呼び戻した。すでに通算610本塁打もマークし(当時)、走攻守すべてにすぐれたスター選手だったが、往年の輝きは失い、契約終了と同時にホワイトソックスを解雇されてしまった。そこに声をかけたのが、メジャー生活をスタートさせたマ軍だった。慣例にならい、「フランチャイズスターが地元ファンに最後のお別れを」となるはずだったが、09年のグリフィーJr.は活躍し、その相乗効果でチームも85勝を挙げる大躍進を果たした。
そこで、欲が出てしまったのだ。「来年は地区優勝」の気運も高まる中、マ軍はグリフィーJr.と再契約を交わした。案の定、グリフィーJr.は大不振でマイナー落ちし、チームも大敗を喫した。マ軍は「レジェンドの晩節を汚してしまった」と後悔したが、グリフィーJr.自身も思うところがあったのだろう。いまだ引退会見を行っていない。
「マ軍のジェリー・ディポトGMは『イチローを獲得した当初から、故障者が復帰してくる5月に彼の処遇を決める方針だった』と話しています。イチローというフランチャイズスターへの経緯はもちろん、グリフィーJr.の晩節を汚し、ファンに非難された過ちを繰り返してはならないと悩んでいたんでしょう」(前出・ライター)
イチローが不本意な名誉職を受け入れたのは、マ軍の苦慮を察したからかもしれない。
(スポーツライター・飯山満)