世界で最も安打数を刻んだ男が、ついに「その時」を迎えた。マリナーズのメジャー開幕戦を巡っては、「決断」を阻止しようとする「球界の盟主」が激しく暗躍。レジェンドが会見でどうしても明かせなかった舞台裏─そこで繰り広げられた驚愕の交渉を、全て明かす。
激動の一日だった。マリナーズ対アスレチックスの開幕第2戦(東京ドーム)となる3月21日は、午前中から慌ただしい動きがあった。関係者の間でイチロー(45)の「電撃引退」情報が乱れ飛んだのだ。
シアトルの地元紙から番記者は2人しか派遣されていなかったが、その一人は早くも「引退予定稿」を書き始めていた。3月20日の開幕戦は「9番・ライト」でスタメン出場したが、2打席無安打に終わり、スコット・サービス監督(51)は「明日も使うが、スタメンかどうかわからない」と明言を避けた。
しかし翌日、2日連続のスタメン出場を発表。しかも関係者には「(初戦のような)2打席で交代ではなく、最後まで使う」と漏らしていた。そうした「不穏な動き」が、電撃引退説に拍車をかけたのである。メジャー関係者が言う。
「オープン戦からまったく打てず、日本に来た時点で打率は1割を切っていた。関係者は『ボールが見えていない』『もう終わっている』と指摘し、イチローを戦力外と見なしていました。1軍枠が28人に増える東京ドームでの2試合を終えて本来の25人枠に戻ると、イチローがクビを切られるのは既定路線だったんです。海外メディアはいち早く『東京で電撃引退』と報じていました。とはいえ、メジャー球界のレジェンドであり、イチローに面と向かって辞めろとは誰も言えない状況があった。最終的にはイチローしだいで、菊池雄星(27)が先発でなければ、試合前に引退を発表したのかもしれません」
この時点ですでに引退の意向を固め、球団に伝えていたというイチロー。だが、かわいがっている菊池のデビュー戦に影響を与えたくないと考え、試合後に会見する手順を決めていたのだ。
「イチローが第一線を退く意向を球団に伝えた」という第一報が通信社から流れたのは、3月21日の午後7時過ぎ。ちょうど2回裏だったが、記者席は騒然となる。海外メディアが確認に動いたため、午後8時半過ぎに大会事務局から、試合後に会見が行われることが発表された。ただ、「何の会見をするか」までは明らかにされていなかった。
イチローが8回裏に交代を告げられると、試合は中断。日本語で交代が場内アナウンスされ、マリナーズの全選手とハグするシーンが演出されたのだ。試合後は、グラウンドに誰もいなくなってもファンは席を立たずにイチローコールを続けたため、急遽、イチローは場内を一周。予想だにしなかった感動セレモニーが繰り広げられたのだった。