さぞイチロー(42)はショックだったに違いない。かつて所属したシアトル・マリナーズの筆頭株主だった任天堂が4月下旬、その保有株の大半を売却する方針を決めたのだ。古巣の異変が波紋のごとく、現在のイチローに多大な影響を及ぼすことになるとは‥‥。
91年に経営が立ち行かなくなり身売りを検討していたマリナーズを、周囲の反対を押し切ってポンと約110億円を出して救ったのが当時、任天堂社長だった山内溥氏だった。以降、25年にわたってマリナーズの55%の株式を保有し、筆頭オーナーとして経営を支えてきたが、その山内氏が3年前に他界。任天堂本体の経営が右肩上がりではなくなった状況も手伝って、保有株を手放すことになった。メジャー関係者が言う。
「山内さんは現場にほとんどモノを言わぬオーナーとして有名でしたが、日本人選手に関してだけは別でした。イチローがポスティングでマリナーズに入団したのも山内さんの指令で、11年半プレーしたのも山内さんの意向。イチローはオフに帰国すると必ず山内さんのもとを挨拶に訪れていました。日本人初のクローザーとなった佐々木主浩氏(48)、日本人初のメジャー捕手となった城島健司氏(39)らの入団も、日本人が世界で活躍する場を提供したい、という山内さんの意向でした。その山内さんが生前に周囲に漏らしていたのが、メジャーで『イチロー監督』を誕生させるという悲願。しかし任天堂が筆頭オーナーではなくなったことで、その夢も消えました。00年以降、とだえたことがなかった日本人選手も今後、消えることになるでしょうね」
今季、所属するマーリンズでほとんどスタメン出場機会のないイチローがメジャー通算3000安打を達成できない場合は来季、マリナーズが引き取り、3000安打を達成させようという計画もあったという。メジャー関係者が続ける。
「イチローにメジャーでプレーする力がなくなってきた場合、『50歳まで現役』を訴えるイチローの考えに沿う形で、マリナーズ傘下のマイナーチームで50歳までプレーイングマネージャーとして監督業経験を積ませ、その後、日本人初のメジャーリーグ監督に“昇格”させるというものです」
実はオリックスが昨年オフ、イチローに兼任監督就任を打診した際、イチローは即座に断っている。宮内義彦オーナーに語ったとされるイチローの言葉は「監督に興味がない」というもの。だが正確には「日本のプロ野球の」監督に興味がないということなのだ。
メジャーの監督は、ほとんどが監督として実績のある人、監督として複数球団を渡り歩いた人、マイナー傘下の監督あるいはコーチとして指導者経験を積んできた人が抜擢されるケースが多い。日本とは違い、あまり現役時代の実績は重要視されず、現役時代の言動を見ながら、指導者の資質のある人をGMが見極め、採用している。出身母体などの人脈も重要で、任天堂という後ろ盾を失ったイチローに、メジャー監督への道が開かれる可能性はきわめて低くなった。
「メジャー関係者の間では『イチローもメジャー監督への道を示されれば受けるでしょう』と言われていたんですが‥‥」(スポーツライター)
現在、マリナーズでプレーする岩隈久志(35)、青木宣親(34)も、契約が切れた時点でチームを去ることが濃厚のようで、任天堂のマリナーズからの撤退は、今後も含めてメジャーでプレーする日本人選手に多大な影響を与えそうだ。