現在、日本政府が北朝鮮による拉致被害者の認定をしているのは、横田めぐみさんら17名。それに加えて、拉致された疑いがある日本人の特定失踪者らは全国で860名以上に上る。
それに対して北朝鮮は、5月12日の朝鮮中央通信で拉致問題に触れて、
〈すでに解決された「拉致問題」を再び持ち出すのは、国際社会が歓迎する朝鮮半島の平和の気流を阻もうとする卑劣で愚かな醜態〉
と強く非難している。これは米朝首脳会談を前に、拉致問題を持ち出した安倍総理に向けた“威嚇”の意味合いもあるだろう。日本が期待する「対話」の席につく前に、そもそも日朝間で「ズレ」があると指摘するのは、北朝鮮事情に詳しい作家の北一策氏だ。
「小泉訪朝で金正日総書記は拉致を認めて謝罪し、横田めぐみさんら8名を死亡と報告しています。当然、日本は納得しませんが、北朝鮮にとって拉致問題はすでに『解決済み』の話。北朝鮮の国民にとって神に等しい正日氏の決定を覆すことは難しいのです」
それでも正日氏の死後、拉致問題に関与していない正恩氏は、経済支援のカードとして利用する思惑も見え隠れする。自民党関係者がこう話す。
「日本は1965年に韓国との間で『日韓基本条約』を結んだ時、総額8億ドルの経済支援を行っています。それを参考に現在のレートなどを含め、最低でも1兆円以上はむしり取ってくると想定されています」
もしも北朝鮮側が拉致問題解決の見返りに、多額の経済援助を得ようとするなら、それなりの「態度」を示す必要がある。そんな中、最近になって「北朝鮮側が日本人を返す」という情報がささやかれ始めている。
「米朝首脳会談のあと、タイミングを見計らって日本人2人を帰国させるという情報が浮上しています。ただ、その2人は政府が認定した拉致被害者ではなく、特定失踪者だというのです。日本人の帰国は喜ばしいことですが、『成果』という面では複雑な部分がある。それでも北朝鮮側に、日本人に違いはないだろうと主張されたら、それで納得するしかありません」(自民党関係者)
さまざまな思惑が渦巻く状況下で、米朝首脳会談の開催は約3週間後に迫っている。「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」代表の飯塚繁雄氏に心境を聞いた。
「(米朝首脳会談が)始まってみないとわかりませんが、具体的に被害者が帰ってくる手はずにつながっていくように、期待するしかありません」
これまで「拉致問題は安倍内閣で解決する」と主張し続けてきた安倍総理。拉致被害者家族や国民はいつまでその「皮算用」につきあわなければならないのか。