とにもかくにも、慌ただしい動きが出てきたようだが、実際に“リング”上ではどのような展開が待っているのか。
「現状、7対3でトランプが有利」とする、国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する。
「大きかったのは、トランプが5月24日に『会談中止』を持ち出してひっくり返したことです。中間選挙を見据えた国内へのアピールや貿易交渉を続ける中国への牽制などの意味合いはあるものの、トランプにしてみたら、首脳会談をやめても失うものはありませんからね。一方、大前提として北朝鮮が核保有で引っ張っていくのは既定路線です。非核化を決断することはありえません」
“挑戦者”の立場となりそうな正恩氏は、トランプ氏にどう立ち向かっていくのか。
「正恩はのらりくらりとアメリカの追及を避け続け、トランプの譲歩を引き出す最大の好機である、中間選挙直前に『段階的非核化』の約束を取り付けて、アメリカをはじめ国際社会の援助を得るのが唯一の勝利パターンでしょう」(国際部デスク)
正恩氏は勝ちに等しい“時間切れ引き分け”を狙っているというわけだ。
「そもそも今、北朝鮮がやろうとしているのは“時間延ばし”。アメリカ大統領が次の人になれば一切が関係なくなってしまうという考えですからね」(山田氏)
一方、余裕のトランプ氏は“大技”を繰り出す見栄えのいいタイミングを待つばかりだという。
「5月24日に北朝鮮が廃棄したとしている『豊渓里の核実験場』ですよ。施設の爆破に際して北朝鮮が専門家の査察を拒否したことからもわかるように、実際に破棄したかどうかはきわめて怪しい。トランプ周辺では誰も核実験場が廃棄されたと信じていません。むしろ今後、北朝鮮との交渉の中で『大きな裏切りがあった』として攻勢を強める材料にできると見ている。トランプとしては『いつでも攻撃できる』という強気の姿勢を崩さず、北朝鮮に対する優位を保ちつつ、圧力をかけ続ける方針になるでしょう」(国際部デスク)
これでは、トランプ氏の交渉テクニックが1枚も2枚も上だということになるが、
「トランプらしさが際立ったのが、17年の韓国とのFTA再交渉。トランプは韓国に通商代表を送り込んだのですが、彼らに『ウチの大統領は突拍子もないからヤバイ。今、OKを出さないと本当にヤバイことになる』と相手に伝えさせ、実際は30日の猶予があったにもかかわらず『猶予の話は絶対にするな』と釘を刺していた。初めにガツンと強気で行って、うまく折れさせていくというのがトランプ流です。実際、韓国相手の交渉では大成功を収めました」(外務省関係者)
いよいよ間近に迫った米朝首脳会談。このプロレスには、筋書きのないドラマが生まれる余地はないのだろうか──。