福本 今は投手もかわいそう。危険球(頭部への死球は退場)というルールもできたな。昔は肘当てをつけてる選手もおらんかった。今は胸元を突いてのけぞらそうと思っても、ガードの上なら当たっても痛くないから、よけることをしない。
江夏 投手の立場からすると、危ないコースに行っても逃げてくれるものという感覚だから。それが当たると『何をしとんのや、逃げんかい』と。いい選手は逃げ方がうまいし、当たっても大きなケガにならない当たり方をする。それも技術の一つだった。
福本 塁に出ても牽制球で足を狙われる場合もあったし、ホンマ油断できんかったわ。
江夏 巨人でも柴田さんが足速かったから、ランナーに出たら足を狙えというのはあった。王さんに対しても「グリップを狙っていけ」「膝を狙っていけ」と、みんなで言うてたよ。実際には当たらんし、当てないよ。でも狙っていく。打者も狙ってきているというのはわかる。それによって恐怖感が出てくるし、逃げる用意もする。そのちょっとした「間」で甘い球を打ち損じるケースも出てくる。そういう意味では、今の野球は見ていて正直すぎるね。
福本 正直すぎるといえば、今年から採用されたリクエスト制度(ホームランの判定以外にもリプレー検証が行える)も問題が多い。
江夏 聞くところによると、審判のジャッジが変わる率が3割5分から4割。だったら今までのジャッジは何だったんだ、となる。変わる率がひどすぎる。
福本 オリックス戦では映像で確認して、逆に間違った判定に変えるという失態もあったしな。
江夏 昔の審判はうまい下手の個人差はあるけど、信念を持っていた。だから我々は審判に育てられたという気持ちがある。それと、昔の審判は野球をわかっているね。間一髪のアウト、セーフなんかでも、お客さんを喜ばせるジャッジをする。今は生真面目すぎるのよ。
福本 アウト、セーフの判定は、やってる選手がいちばんわかってる。昔はクレームをつけても「黙っとけ」言われて終わりやった。あんまりしつこく言うと、向こうも意地張ってくるから、黙ってニコッと引き下がるようにしてた。
江夏 例えば、ショートが三遊間の深いところからすばらしい送球をした時に、微妙なタイミングでもアウトと手が上がる。そういう判定には選手も納得していたし、ファンも盛り上がるんだから。
福本 それが「ちょっとビデオを見てきます」となると、ガクッとくるやろ。
江夏 我々の時代には「王ボール」「長嶋ボール」が実際にあった。それをわかってやっていたしね。特に後楽園でやる時は、中盤までは手が上がっていたコースが、終盤になると上がらない。「なんで」と言うと、「ボールだ」と、それだけ。
福本 日本シリーズで巨人と戦った時にそれは感じた。敵は9人でなく、10人やった。勝つ時はホンマに一気にいかんと、接戦では不利な判定で負ける可能性があるから。でも最近の巨人はホンマに弱くなったな。巨人が強くないとおもしろくないね、やっぱり。