連日、35度越えの猛暑日が続いていた、7月の土曜日の夜。赤坂にあるテレビ局の楽屋に入った殿は、付き人が入れたお茶を飲む前に、「あれだな。熊本のライブよ、──」と、9月4日に開催される「ビートたけし単独ライブinくまもと」でのネタについてアイデアをつらつらと提案してきたのです。
そして10分程、盛りだくさんの案を述べると、「今度出る小説がよ、──」と、唐突に話題を切り替えてきたのでした。漫才ブーム時代の「ツービート」よろしく、殿はポンポンと話題を変えてきます。
で、殿が言うには、すでに書き上げ、年内に出版が決まっている短編小説が3本ほどあり、その3本について、改めて“どんな小説か”といった話をぜいたくにもたっぷりと語ってくれたのです。
誰よりも早く“次のビートたけしの小説”について、聞き終えたわたくしが、「殿は今、ものすごいペースで小説を毎日書いているじゃないですか。いつ、書いてるんですか?」と、改めて素朴な疑問をあてると、殿は即答ぎみに、
「夜中だよ。帰って飯食って、いったんちょっと寝てよ。それで12時ぐらいからピアノやったり絵描いたりごそごそして、それが飽きたら小説書いて、小説に飽きたらまた絵描いて。それで疲れたら、ソファでひっくり返って寝てよ。そんな感じで朝までやってんだよ」
と、「2018年度版 たけし創作スタイル」を具体的に明かしてくれたのです。ちなみに、殿のこういった深夜の創作活動については、以前にちらっと聞いたことがあったのですが、「ソファで寝ちゃう」は、この時初めて聞きました。
で、すでに書き上げた小説について語り終えると、お次はこれから書く小説のプロットをすらすらと語りだしたのです。ここまでで、楽屋に入ってきてほんの20分程。矢継ぎ早に殿から語られる、あふれるアイデアの数々に、この日はいつも以上に“ビートたけしの弟子としての特権”を感じると同時に、今、殿が語ったそのどれもが、必ずや実現されるものであり、改めて〈自分は現役の天才を近くで見ているんだな〉と、強く感じた次第です。
ライブ、小説と、順番にポンポンと語り終えた殿は、
「ちょっとラップをよ‥‥」
と、つぶやくと、どこへ行くにも持ち歩く、オリジナルトートバッグの中から大学ノートを取り出し、真ん中あたりを開いては、書きとめたリリック(歌詞)を口に出し、しゃべりだしたのです。そして、ノートをこちらに見せてきては、
「けっこういろいろ書いたんだけどよ、ラップってこんな感じでいいのか?」
と、問うてきたのでした。
この時、〈殿はラップまで具体的にやり出しているのか!〉と、少し驚きながらも、そのノートを拝見すると、みっちりと韻を踏んだリリックが書き込んであるではありませんか!
夏バテ知らずの殿の創作意欲──。例によって、驚くばかりです。はい。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!