「それもこれも、サンデーサイレンス産駒は、初年度からGⅠ馬フジキセキ(朝日杯3歳ステークス制覇)を出すなどして、爆発的な成功を見せたからです。この馬の存在抜きでセレクトセールの大成功、ひいては社台の現在はありえないと断言できます」
このセレクトセールでサンデーサイレンスの果たした役目は、いわば「打ち出の小槌」。続々と高額取引馬を出しては、社台の懐を温めていった。
ちなみにサンデー産駒の馬には、あのディープインパクトもいる。ディープは現在、チャンピオンサイヤーの座を確定的にし、日本の競馬の牽引車的存在になっている。一回の種付け料は1000万円と言われ、「それで年間200頭以上に種付けをしているわけですから、どれだけ儲かるかがわかるでしょう。社台王国を潤わせ、影響力を増大させているドル箱ですよ」(トラックマン)
さて、サンデーサイレンスの成功については、日本の馬場にマッチしたからだということがしばしば指摘されるが、実はその仔の扱いは簡単なものではなかった。産駒の多くは手足がグッと伸びてしなやかな動きをするが、気性面の荒さを持ち合わせ、また、直線で抜け出すと気を抜いて「ソラ」を使ったり、内にササッたりもした。
その典型的な例が、95年ダービーを制したタヤスツヨシや、96年皐月賞馬のイシノサンデー。直線で抜け出す際に、内側にササッて他馬を妨害、長時間審議になった。
だが、こうした「クセのある」サンデーサイレンスの仔を上手に操り、何度もGⅠ勝利を収めた騎手がいた。言うまでもなく、天才と称される武豊だ。
武をよく知る厩舎関係者が証言する。
「豊はビデオで現役時代のサンデーサイレンスの走りを何度も繰り返し見ていて、そういう癖があることを早くからつかんで乗っていた。つまり、スタートして気合いをつけるようなことをせずに、脚をため、直線で他馬を一気にかわしてしまうレースをしたのです。ディープインパクトの騎乗がまさにその典型ですが、実際に乗っていた時は、レースへの集中力をどう保たせるか神経をかなり遣ったと聞きます」
一方で、こうした騎乗は武にとっての弊害も生むことになる。
「この成功に味をしめたせいか、あまり前々で競馬をしないようになりました。それで人気馬に乗って取りこぼす(差して届かず)ようにもなり、いつしか『タメ殺しの武』と揶揄されるようにもなりました」(前出・トラックマン)