「アベ政治を許さない」をスローガンに行われる総理官邸前での抗議デモは、今も続いている。なにかと国会議員の行状ばかりが目立つが、生活に密着した地方行政も目に余るものがある。そこでいったい何が行われているのか、把握している住民は少ないだろう。知れば知るほど腹が立つ血税消費の現場を、例えば埼玉県の騒動で見てみると──。
埼玉県の中ほどに位置し、JR東北本線と東北自動車道が縦断。首都圏のベッドタウンとして知られる、人口約6万2000人の埼玉県蓮田市が今、ある騒動で大きく揺れている。渋い表情で語るのは、地元の商店主だ。
「4期目の中野和信市長は前回の選挙ではなんと、無投票で当選した、蓮田の実力者です。その市長に住民訴訟が起こされた。それが30年以上かかってようやく建設にたどりついた、市民懸案の蓮田駅西口再開発を巡る金の問題だとあって、地元では寄ると触るとこの話題で持ちきりなんですよ」
蓮田市の玄関口となるJR蓮田駅は東口と西口に分かれ、東口には商業ビルや飲食店があり活気があるが、
「西口はほとんど飲食店もなく、夜7時を過ぎたら誰も歩いていない。駅前の電気も落としてしまうほどです。恐らく東京から電車で1時間ほどの距離で、こんな街はないでしょうね」(地元タクシー運転手)
そんな西口を活気づけ、さらに蓮田のランドマーク的な存在にしたいとの思いから、85年に産声を上げたのが、蓮田駅西口再開発事業だった。
ところが、最初の都市計画決定から変更が5回、事業計画も5回変わった。今年2月にようやく、特定建築者として東急不動産が決定。約7000平方メートルの敷地に168戸の住宅と公共施設や店舗などが入る地上14階建ビルの建造が決まり、今年10月の着工を待つばかりとなっていた。その最中の8月、市民3人が中野市長を相手取って訴訟を起こしたのだ。
訴状によれば、請求の趣旨は2点。まず、権利者が有していた駐車場の保証が過大なので是正しなければいけない。そして、建設されるビル2階部分の公共施設整備費10億円の支出は違法、または不当なので、これを差し止めるというものだった。原告の一人であるA氏はこうブチまける。
「西口に蓮田を代表する施設ができれば、大きな経済効果があるはず。だから、以前から定期的に開かれている説明会にも参加してきました。ところが変更された事業計画書の中に、県に提出、認可を受けた書類にはない、つじつまの合わない10億円が含まれていると、議会関係者から聞いたんです。今年5月に市の監査委員に措置請求を提出し、6月22日に蓮田市役所の会議室でこちらの代理人を交えて監査人と質疑応答をしたんですが、誠意ある回答が得られない。7月11日にはこの措置請求が退けられたため、8月10日にさいたま地方裁判所に市長を告発、違法な支出差し止めを求めて提訴したというわけです」
A氏ら市民グループの主張によれば、再開発整備費は、都市再開発法51条で施行規定の制定や県の認可が必要。同56条でも、計画変更の際は県の認可が必要と定められているが、市は県に提出、認可を受けた事業計画書にはない10億円を追加し、計画を進めようとしている、というのである。
市民グループの一人が憤慨する。
「建築にかかる費用が58億円。これを補助金12億円と借入金46億円で賄うという。補助金は返金不要ですが、借入金はマンションとテナント部分を売却し、手数料を引いて入った46億円で返す、というのが、埼玉県に提出して認可を得た計画書にあるものです」