圧倒的多数の支持を追い風に船出を遂げた新生安倍ニッポン丸。しかし「決められない政治」の積み残しが山積。新政権の行く手には幾多の難関が待ち構えている。はたして公約どおり航行できるのか。2号連続の「池上彰SP」後編も、2013年をクッキリ読み解く!
─前号では安倍総理の景気対策についてうかがいました。今週は私たちの生活についてお聞きしたいと思います。
なるほど、そういたしましょう。
─安倍総理は“タカ派”として知られていますが、世界はどう見ていますか。特に、領土問題を抱える中国、韓国はどうでしょう?
まずね、安倍政権ができた時の2国の反応は微妙に違ったんですよ。韓国が「日本に極右政権ができた」と各メディアが大騒ぎしたのに対し、中国国営の新華社通信は「非常にタカ派の政権が生まれたが、これを機会に日本が日中関係に真摯に取り組めば関係改善の可能性あり」と言っているんです。ちょっと驚くかもしれませんが、共産党独裁の国はタカ派の指導者を歓迎するんですよ。
─エェ、それはどうしてでしょう?
はい、ご説明いたしましょう。例えば、70年代に米中の国交正常化をしたのはニクソン大統領でした。当時のアメリカでは共産主義国と関係を改善するなんてとんでもないという風潮だったのですが、タカ派のニクソンが実行したので反対できなかったんです。日中関係でも、田中角栄総理が国交正常化しましたが、平和条約を結んだのは台湾を支持してきたタカ派の福田赳夫総理でした。
─なるほど不思議なものですね。
でしょ。簡単に言えば、民主党が中国との関係を改善すると言ったら右翼が黙っていないでしょう。でも右寄りの安倍総理が中国と関係改善すると言い切れば、誰も反対できないんです。ほら、安倍総理を熱狂的に支持するネトウヨは韓国が大嫌いなんですが、安倍総理がサムゲタンのおいしい韓国料理の店で食事して、サインまで置いていったことがわかったとたんに静かになってしまった。
─トップに裏切られると支持者も怒りようがない。
それはともかく、小泉総理時代に日中関係が悪化したあと、第一次安倍内閣は靖国参拝を封印していきなり中国に訪問し、日中関係は劇的に改善しました。中国はそれを期待しているんですねぇ。
─今回、安倍総理は、まずアメリカを訪問します。
はい、そうですね。まずはアメリカとの関係を改善するんだということです。昨年12月に中国の飛行機が尖閣諸島の領空侵犯をしたでしょ。これまでにも接続水域に中国の船が何度も入ってきましたが、領空と領海では全然違うんですよ。領海では日本の海上保安庁の船が対応していたわけですが、領空は航空自衛隊がスクランブルします。つまり、いきなり自衛隊の出番となってしまうんですね。
─一触即発となる可能性もあるということですね?
そうですね。ただ、逆に言うと中国も軍機ではなく漁業監視のプロペラ機をおそるおそる飛ばしてきたわけです。すぐにアメリカが中国に対し、尖閣は日米安保が適用され、日中の軍事衝突は米中の軍事衝突になるんだぞと警告を出したわけです。となると、中国もうっかり手が出せません。これは日米の関係を改善する動きがあるからこそ、アメリカが日本を味方してくれているわけです。以上のことを踏まえての訪米なんですね。
─領空侵犯されたらプロペラ機を撃墜するのかと。
いくら何でもしません。安倍総理がタカ派だけに、中国との関係が悪化すると思ったでしょ。でも、意外とそうじゃないんですよ。ただし、手ぶらでオバマ大統領に会うわけにはいかないんですねぇ。
─それがTPPになる?
そうですね、アメリカは当然、TPPを認めなさいと圧力をかけてきますよ。日米関係を強化することによって中国に立ち向かおうとしている以上、日本はこれまで以上にアメリカの言うことを聞かざるをえない。さらに言えば、今、アメリカでシェールガスが大量に出ていますが、TPPに加盟すればそれを売ってもらえる可能性があるわけです。安い天然ガスを輸入して電力料金を抑えたい日本は、やはりTPPに入らざるをえなくなるんです。
─それは痛しかゆしですね。
ただ、安倍総理はTPPに積極的ですが、総選挙ではTPPに反対して当選した自民党の議員がたくさんいますから、まだまだ国内は揉めるでしょうね。