大震災後初の総選挙は、民主崩壊、自民の地滑り圧勝となった。その要因の一つに、長引くデフレ不況に疲弊した国民が、大胆な金融緩和で景気浮揚を図る「アベノミクス」に一縷の望みを求めたことがあげられる。政権交代で日本は再び日いづる国となれるのか? 選挙特番でも大活躍だった池上彰氏がスッキリ解説する!
──総選挙では自民党が大勝し、再び政権交代を実現しました。
そうでしたねぇ。ただ、実際には比例区の自民党の得票総数は3年前に民主党が政権交代した時よりも少ないんです。つまり、前回、民主党に1票を投じた人たちが今回の選挙では棄権しているんです。だから、民主党が勝手に負けてくれただけで、自民党が勝ったわけではないんです。
──現職大臣クラスの大物が落選し、民主党の大敗を象徴しました。
はい、そのとおりです。ベテラン議員が次々に引退に追い込まれる一方で、経験の少ない“安倍チルドレン”が大量に生まれました。前回の民主党でどっと増えた「小沢チルドレン」現象の自民党版が起きたということなんですね。
──それにしても市場は安倍政権を大歓迎しました。
ええ、株価が一気に1万円台まで回復しましたからね、これはすごいことです。もともと新政権になれば、何か景気対策をしてくれるのではという漠然たる期待感がある。ですから金融緩和の期待が高まれば、そこに海外の投機筋は「これは絶好の儲け時だ」と、日本の株を購入するわけです。マーケットは選挙が終わったとたんに株価は下がると予測していたんですが、ところがどっこい議席数が自公で3分の2を超えたもんですから、再び期待が高まった。この1カ月の株価の上昇率は世界中で日本がトップなんです。
──安倍総裁は「輪転機をぐるぐる回して、無制限に紙幣を刷る」とか、「建設国債は日銀に全部買ってもらう」という強気な発言をしていましたが、そんなことが可能なんでしょうか?
ええ、原理的にはできるんですよ。もちろん日銀に直接引き受けさせるなんてことをやったら、これは世界の先進国ではありえないことです。ただ、マーケットを通せば禁じ手ではないわけですよ。例えば、これから10兆円の補正予算を組むことになりますが、そのお金は国債で賄うことになります。それをマーケットに売りに出し、その分を日銀が全部買う、結果的にそれは日銀の直接引き受けとほとんど変わらないわけなんですがね。
──「物価目標2%」で、デフレ不況を脱却して好景気に転じることができれば期待したいところです。
はい、まず株価が上がり円安となれば、自動車、電機などの輸出産業はこれから業績が上がってくる可能性があります。早ければ13年の夏以降に給料が上がり始めるでしょう。これらの産業は子会社、系列、取引先など裾野が広いから、そこから日本経済がよくなっていけば私たちの給料も上がってくるでしょう。秋以降には広告費も入り「アサ芸」さんなどの雑誌だって助かるでしょう?
──それは願ってもないことです。
さらに言えば、2%のインフレにするということはモノの値段が上がる、つまり、土地など不動産が上がるんです。ですから間違いなく、今後は不動産投機が起き、これから新築マンションの売り出し価格が上がってくる。お金のある人はインフレ対策のために土地や株を持つわけですよ。株、不動産を持っている人にはまたとないチャンスがやってきます。