広島市在住の迫氏は、「カープ人気が高まった背景には、マツダスタジアムの存在も大きい」とも語る。マツダスタジアムは旧広島市民球場の老朽化に伴い市が建設した、米メジャー流の「ボールパーク」である。競技を観戦するだけの単純な球場ではなく、アミューズメントやアトラクションなどを併設した複合施設だ。
「マツダスタジアムは広島市の施設ですが、その運用は『指定管理会社』である広島東洋カープが担っています。だからこそ、カープがファンを楽しませるための自由なアイデアを実現しやすい環境にあります」(迫氏)
確かにスタジアムの客席は“バーベキュー席”などバラエティー感が満載。ソファに寝そべって観戦できる“寝ソベリア”などは、松田オーナーみずからアイデアを出したものだという。しかも毎シーズンのように、これらの席の趣向や周辺のアトラクションはどんどん更新されていく。
「オーナーは『顧客満足の原点は、ディズニーランドにあると思っている』と言っていました。ディズニーランドのように飽きられない球場を目指す、ということだと思います。ウォルト・ディズニーは『ディズニーランドに完成形はない。この世から人間の想像力がなくならないかぎり、ディズニーランドは進化し続ける』と言いましたが、マツダスタジアムこそ、まさに“進化し続ける球場”だと思います」(迫氏)
また、球場内のコンコースでは県内外の自治体の特産品をPRするミニ物産展が開催されて、まるで“道の駅”のような状態になっている。こうした「地域密着型」のスポーツビジネスモデルを多数打ち出していることも、広島の強みとなっている。迫氏が続ける。
「私は“循環型マーケティング”と呼んでいます。他にもカープの選手や球団OBが各地で開催される野球教室に参加したり、地方自治体とタッグを組んだコラボグッズ、観戦バスツアーなど、ファンや地域住民を楽しませ、喜んでくれる催しやサービスをすることで、結局はカープファンが増え、リターンも大きくなる、ということを理解し、実践しているのです」
17年の決算公告で、広島は過去最高となる12億9700万円の純利益を計上した。チームが勝てばファンは球場に足を運ぶ。それは真理だが、たとえチームが弱くても、行く価値がある球場作りや経営努力があってこその結果だと言えよう。