ガンと聞くと「死」をイメージする人も少なくないでしょう。しかし、一口にガンと言っても「治りやすいガン」と「治りにくいガン」があります。今年9月に国立がん研究センターが公表した「ガンの5年生存率」は59%でした。ガンと診断された人の6割が5年後も生きているというデータです。
ただし、ガンは部位により、5年生存率にかなりの差が生じます(ページ下部参照)。生存率上位のガンほど「治るガン」で、下位になるほど生存率も低くなります。
ガンには、「大きさ(広がり)」「リンパ節への転移」「他の臓器への転移」の3基準をもとに分類した「ステージ」が存在します。
「ステージ0」はガン細胞が上皮細胞内にある初期段階です。「ステージ1」はガン腫瘍が上皮細胞から筋肉層へと進んだ段階で、「ステージ2」はガン腫瘍が筋肉層を越えてリンパ節への転移が始まります。「ステージ3」はガン腫瘍が浸潤してリンパ節へ転移し、「ステージ4」はガンが他の臓器へ転移した段階です。
手術や放射線治療のあとに再発リスクを抑えたり、手術で取り除くのが難しい全身に広がったガンの進行を遅らせるために投与するものが抗ガン剤です。ではここで質問です。抗ガン剤治療は、ステージ0とステージ2のどちらで始めるべきでしょうか。
ステージ0は表面だけのガンであり、手術による切除でガン細胞を全て取り除ける段階。抗ガン剤治療は早すぎます。つまり抗ガン剤を使う必要がないのです。また、ステージ0の上皮段階では保険金が下りないとされるガン保険も珍しくありません。
ステージ1の段階でも「胃を3分の1ほど除去したら治る」などと診断されるケースが多いのですが、この際、ガン細胞の周囲にあるリンパ節に転移していないかどうかを調べます。転移していなければ抗ガン剤は必要ないですが、1つでも転移していると抗ガン剤治療を勧められることがあります。
抗ガン剤には全身のガン細胞の進行を遅らせる効果がある反面、髪の毛が抜けたり、体重減少などの強い副作用も生じます。いわば劇薬でもあり、ステージ2で遅くはないと思います。
ただし、患者の年齢や体調など個人差があるため、投与するか否かは自分で決めることがベストでしょう。子供が独立した70歳の人と、まだ幼い子がいる40代の人とでは状況に違いがあります。40代なら抗ガン剤治療をやるべきですが、70代なら樹木希林さんのように拒否するのも立派な選択肢です。
抗ガン剤治療の強い副作用とともに、5年後の再発率についても考えるべきです。体に負担のかかる治療を受けるのですから、再発率が半分以下や10分の1程度になるなら投与するべきです。もし私が相談されたら1クール(約1週間。通常は5クール行う)だけトライして、我慢できるなら続ける、きつすぎるならやめるのはどうか、と勧めます。
ステージ4の段階では、再発率がゼロになることはありません。この段階で使うのは、余命半年を3年や4年に延ばすことになります。苦しさを味わって寿命を延ばすか、自然の摂理に従うか。それは自分自身で決めることでしょう。
■ガンの部位別5年生存率
前立腺:97.5%/大腸:72.2%/胃:65.3%/白血病:37.8%/肝臓:33.5%/肺:27.0%/すい臓:7.9%
※2002~2006年 男性患者15~99歳が対象
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。