天下分け目の関ヶ原の戦い、西軍の大将・石田三成の武運は尽きた。「負ければ賊軍」の象徴人物だが、最近はその評価が見直されている。そして、彼がたしなんだお茶にも注目が集まっているのだ。
石田三成の有名な逸話に「三献茶」がある。歴史偉人の健康術に詳しい、愛知医科大学医学部客員教授・植田美津恵氏が話す。
「鷹狩りの帰りに喉の渇きを覚えた秀吉が、ある寺に立ち寄って、お茶を欲したんです。1人の寺小姓は最初、ぬるめの茶を茶碗に8分ほど入れて差し出した。一気に飲み干した秀吉がもう1杯ねだったんです。すると今度は、少々熱くした茶を茶碗に半分ほど注いで持ってきた。最初のお茶と違うことに気づいた秀吉は、試すつもりでもう1杯おかわりしたんです。すると寺小姓は、小さな茶碗にかなり熱い茶を少しだけ入れて持って来た」
訳を尋ねる秀吉に寺小姓は「喉の渇きを潤すためなら、ぬるめのお茶がおいしい。次は熱めでほどよい。そして3杯目は、お茶の味そのものを味わうために濃くて熱いお茶を出した」と答えた。秀吉はこの寺小姓の心配りに感心し、連れて帰って家来の一人にしたという。この寺小姓こそが、15歳の時の三成。ちなみに、羽柴秀吉37歳の時だった。
お茶は温度によって抽出されるものが異なる。お茶の栽培、製造、販売を行っている新井重雄氏が明かす。
「お湯の温度は、それぞれのお茶のおいしさを引き出す重要なポイント。渋み成分のカテキンは80度以上の高温で、うまみ成分のアミノ酸は50度以上の低温で溶け出しやすい」
管理栄養士の川田孝子氏も続けて、
「ぬるいお茶は、テアニンという疲れた体を癒やす働きをするものが多く抽出されますが、少し熱めのお茶は疲労回復に有効なカテキンが多く抽出され、熱いお茶は、覚醒作用のあるカフェインが多く抽出される」
ところで、戦国武将たちが茶をたしなんだのには、もう一つの理由があった。永山氏が解説する。
「戦国武将は絶えず闘争に明け暮れていた。だから、アドレナリンがあふれる。これは交感神経の作用が高まると分泌され、血糖量の上昇、心拍数の増加などを起こすんです。ストレスがかかりますが、それを副交感神経の働きで鎮める。お茶の成分・テアニンなどがその働きをします。名将はアドレナリンを消し、ストレスをためないことが上手だったんです」
三成は41歳で処刑されたが、時代が違ったら長寿を全うしたかもしれない。