「何だ、久しぶりに見たら、天知茂みて~な顔しやがって!」
2年程前、殿と楽屋にてぼーっとテレビを眺めていると、何かの歌番組で、とあるビッグアーティストが、往年のヒット曲の数々を次から次へとメドレーで歌っている映像が目に飛び込んできました。どの歌も耳に覚えのあるそのヒットメドレーに、改めて〈○○ってすげえ~な。何曲ヒット曲あんだよ!〉と、感心しているわたくしに殿はポツリと、冒頭の言葉を漏らしたのです。一瞬、〈○○が天知茂似?〉と、殿の独自の感覚にとまどいながらも、よくよく気にして見てみると、確かにどことなくその方が天知茂さんに見えてくるから不思議でならず、それ以来、○○さんをテレビで見かけると、もう天知茂が歌っているようにしか見えず、大変困っている次第です。
殿が時折放つ、「こいつは、誰々に似てるな」といった“顔の見立て”は、かなり独自なケースがまれにあります。わたくしが思うに、殿は輪郭が似ているとか、顔のパーツが似ているからとかだけでなく、もっと本質的なものをその人の中に見つけ、「あいつに似ている!」と指摘しているようでなりません。要するに“こいつとこいつはどっちも、テレビで笑顔を振りまいてはいるが、きっと裏でカミさんを殴ってる同じタイプである”といった見立て。ですから、殿がよく言う、「人間、顔見りゃだいたいわかる」にたどりつくのではないかと。以前、顔に関して、殿はこんなことも言っていました。
「芸人は基本、舞台なんかで、大勢の客前に出て勝負するから、ほっとくときつい顔になるんだよ。それでも落語や漫才なんてのは、舞台で一段高いところからやるからまだいいけど、大道芸人なんかは、客と同じ目線の高さで、近い距離でやるだろ。だから、どんどんきつい顔になるんだよ」
と。さらに、
「一番すごいのは、町中で物売ってるヤツの顔だよ。昔、いたろ? 町中でいきなり物売り出すヤツが。あーいう商売は客を引き付けて、最後には買わせるとこまで持っていくから、一番しんどいんだ。だからその手の商売のヤツは、目つきがどんどん鋭くなるんだよ」
とも。“その手の商売”とは、わかりやすく言えば寅さんであり、テキヤ的職業です。確かに、そういった職業の方に、怖い顔の方が多い気がいたします。「顔は男の履歴書」とは、よく言ったものです。
で、何かと顔にうるさい殿がつい先日、某テレビ局の廊下で、たぶん朝の情報番組で使用されたであろうモンゴル出身力士のお兄さんの顔が大きくプリントされたパネルが捨ててあるのを見つけると、そのパネルを手に取って、まじまじと凝視し、
「何だ、こいつ、俺に似てんな。俺の顔はやっぱりモンゴルなんだな」
と、つぶやいたのです。
お見せできないのが大変残念ですが、確かに、写真のモンゴルのお兄ちゃんは、たいそう殿似でありました。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!