安倍論文はここで一気に語気を荒らげる。
〈それこそ、中国政府が東シナ海の尖閣諸島周辺で日々行っている演習に日本が屈してはならない理由である。(中略)こうした船の存在を日常的に示すことで、中国は尖閣諸島周辺の領有権を既成事実化しようとしているのだ〉
これはすなわち、度重なる中国船の尖閣海域出没や航空機の領空侵犯などの中国が仕掛けるケンカに対しては、真っ向から立ち向かうという「宣戦布告」である。前出・政治部デスクが言う。
「日本は東アジアの中で、制海権をきちんと確保したい。南沙諸島を中国に取られることは、マラッカ海峡を通過する際の大きな支障となります。ひいては、尖閣のある南西諸島の領海権もハッキリと確立したい。そのためには、中国の台頭は許しがたいのです」
1月3日、麻生太郎副総理兼財務・金融担当相(72)はミャンマーを訪問。続いて9日から14日にかけては、岸田文雄外相(55)がフィリピン、シンガポール、ブルネイ、オーストラリアを連続訪問した。さらに畳みかけるようにして、安倍総理も16日、ベトナム、タイ、インドネシア3カ国訪問へと出発している。前出・デスクが続けて説明する。
「政権発足後、東南アジアのASEAN10カ国のうち8カ国に3人の閣僚が即時、出向いた。まだ国会での施政方針演説も経ないうちにこうした積極外交を展開するのは異例のことです。この3閣僚の東南アジア外遊は、他ならぬ中国包囲網形成の合意を得ることであり、実際にその話し合いを行った。安倍総理は『インドにも行きたい』と言っており、包囲網をインドにまで広げるつもりで、それが論文の『太平洋とインド洋における平和、安定、航行の自由』につながる。安倍総理は麻生、岸田両氏に『中国を封じ込める。中国の海洋進出の出口を封鎖せよ!』との大号令を発して送り出すなど、本気です」
事実、安倍総理は出発に際して、メールマガジンで「今回の訪問では、東南アジアの国々との戦略的なパートナーシップを深めてきたいと思っています」と宣言していたのだ。
幸いにしてフィリピン、ベトナムは中国との間で海上の領有権を巡って衝突しているうえ、ベトナムは79年に中国と戦争をしていることもあり、歴史的に反中感情が強い。インドも国境、領土問題を抱えるなど、反中国で手を結ぶのは容易だった。
安倍論文は東南アジア諸国を押さえたうえで、さらに踏み込んだ作戦に言及。
〈東シナ海と南シナ海で進行中の紛争は、国家的な戦略的視野を広げるべき日本の最優先外交となる。(中略)私はオーストラリア、インド、日本、そしてアメリカのハワイをもってして、インド洋から西太平洋にかけての海洋権益を保護するダイヤモンドを形成する、という戦略を描いている〉