西村氏は、
「米外交専門誌『ディプロマット』は『北京の湖』をそのままタイトルにして安倍論文を評価する論説を発表し、中国を牽制しました。『ウォール・ストリート・ジャーナル』も『日本の防衛において』という論説を掲載し、高い評価を与えています」
と、他国の反応を紹介したうえで、中国包囲網とダイヤモンド構想、英仏軍事演習の現実味について次のように話す。
「実現度はかなりあります。というのは、日本だけが勝手に描いている構想ではないからです。昨年12月、フィリピンのロサリオ外相がイギリス紙『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューに応じ、『日本には早く軍事力を増強してほしい。そして憲法を早く変えてほしい』と発言しています」
フィリピンはまた、海上保安庁の古くなった巡視船10隻を払い下げてほしいとの要請を出している。
では具体的に、軍事演習とは何をするのか。防衛省関係者によれば、
「島嶼防衛の一環です。尖閣のような小島が他国に奪われた時にどう取り戻すか。海上に敵艦隊、すなわち中国の船が出現したらどこまでのことをやるのか。日本とインドの混成チームにするとか、オーストラリアはどういう役割を担うかとか、さらには武器、燃料、食料の補給はどうするのか。それらはどこの飛行場に持ってくるのか、その飛行場はどの程度の規模の輸送機を離着陸させられるのか。そうしたことをシミュレーションしておくのです」
ここで出てくるのが、フィリピンも望む、自衛隊を「国防軍化」するための憲法改正である。
「軍事演習の先に見据えているのは、もちろん集団的自衛権の行使。安倍総理は既成事実を作り、さらにフィリピンからの『外圧』などを理由にして、なし崩しに憲法改正に持っていきたい」(官邸担当記者)
早くからダイヤモンド構想の存在を指摘していたジャーナリスト・森省歩氏は、安倍論文に書かれなかったもう一つの戦略について、こう解説するのだ。
「中国を軍事的に抑えつければいいという話ではなく、第一次安倍政権で言及した『戦略的互恵関係』、すなわち中国をつけあがらせないようにして経済協力を引き出すことです。表向きは殴り合いつつも、水面下では首脳同士がしっかりキンタマを握り合う。いわゆる『政冷経熱』の状態にしようとしているのです」
当の中国は、安倍論文の挑発に反応したのか、1月14日の軍機関紙「解放軍報」によれば、総参謀部が「2013年全軍軍事訓練指示」の中で「戦争にしっかり備え、軍事訓練の実戦化を大いに強化せよ」「戦争能力を高めよ」と指示したという。
森氏の言うように、これも日本を牽制するための、中国お得意のパフォーマンスなのか。「宣戦布告」に対する中国のさらなる反応が注目される。