突然死、インフルエンザや肺炎、日常的な体の痛み─寒さに凍える冬は、シニア世代にとってさまざまな病魔におびえる厳しい季節だ。だからこそ、ここで体の不安の原因をしっかり突き止め、それを徹底攻略すべし。元号も変わる新しい1年を迎えて、より健康に過ごしていきたい!
「冬場になると救急病院で増えてくるのが、お風呂場で倒れて運ばれてくる患者です。熱めのお湯や長時間の入浴が原因で、意識を失ったまま浴槽で溺れたり、転倒してしまった人たちです。ほとんどは70歳代以上でしたが、中には50~60歳代もいました」
そう語るのは、緊急の脳疾患を専門とし、数多くの救急現場を経験してきた脳神経外科医の菅原道仁医師である。
今年11月に消費者庁が発表したデータによると、平成28年度における高齢者の入浴中の不慮の事故による死亡者数は4821人。同じ年の交通事故による死亡者数3061人よりも圧倒的に多いのだから驚く。入浴中の急死の中には、病死と判断されることもあるため、全国で年間1.4万人との推計もあるほどだ。
高齢者の自宅の浴槽における入浴中の死亡事故は、年々増加傾向にある1月をピークに、11~3月の冬季に多く発生しているという。
つまり、これから風呂場での突然死が本格化するということになる。
風呂場の突然死の原因と考えられているのが、いわゆる“ヒートショック”。急激な血圧の上下変動によって健康被害が及ぶ現象で、入浴中に心肺停止を起こして急死する人のほとんどの原因となっているというのだ。
その突然死のメカニズムについて、脳神経外科医のアキラッチョ医師が解説する。
「暖房をつけている部屋に比べて、脱衣所や浴室は室温が10度以上も下がる場合があります。外気温が急激に下がると、体の血管がびっくりして収縮反応を起こし、急激な血圧上昇を引き起こします。さらに温かいお湯につかることで全身の血管が拡張するため、急激に上昇した血圧が、今度は急激な血圧低下を起こしてしまいます。この急激な血圧変動が脳梗塞や失神を引き起こすというわけです。入浴中の失神は、溺死の危険性さえあるのです」
日本法医学会企画調査委員会がまとめた「浴槽内死亡事例の調査」によれば、事故の発生場所は「自宅浴槽」が88%を占め、発見場所は「浴槽内」が99%。つまり、浴槽があなたの棺桶になるかもしれないのだ。
冬場に危険なのは、風呂だけではない。トイレにも注意しなくてはならない。
「日本家屋のトイレは、日が当たりにくい“鬼門”(北東方向)にある場合が多い。冬場は特に冷え込むためヒートショックを起こすリスクが高くなります。また、便秘になると排便時に力むことになるため、血圧や心拍数が上昇して、さらに心臓へ負担がかかることになります」(アキラッチョ医師)
それでは、どんなタイプの人がヒートショックになりやすいのだろうか。
「一般的には70歳以上の高齢者に起こりやすい現象ですが、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を持病として持っている人も注意が必要です。また、お酒を飲んだあとに入浴する人も要注意。アルコールを体内で分解する時は多くの水分を必要とするため、体の中は脱水状態になっている場合があります。体の中の水分量が足りない時に急激な血圧変動を起こしてしまうと、脳梗塞など脳卒中のリスクが高くなります」(アキラッチョ医師)
では、中高年は風呂場とトイレだけに気をつければいいのか。実は今、「血圧サージ」というキーワードも、大きな注目を浴びているのだ。
これは、血圧が正常とされている人の中で、瞬間的に血圧の急上昇が起こる現象を指す。日常的に急上昇が起こるようになると、通常の血圧が正常だという人も臓器や血管の老化が進み、脳卒中・心臓病などのリスクが高くなる。つまり、高血圧の自覚がない人でもこの危険を抱えている可能性があることを覚えていてほしい。