「北郷、こうしよう。お前が明日から『カツラKGB』の最高幹部になれ。俺はいったん退く」
昨年最後の仕事となる生放送を終えた殿は、スタジオから楽屋に戻る道すがら、唐突にこんな言葉を放り込んできたのです。
まず、改めてカツラKGBから説明させてください。その名の由来は、東西冷戦時代、暗躍した悪名高きソ連の秘密警察KGB(カーゲーベー)の名前を拝借して、殿が20年程前に秘密裏に立ち上げた、芸能界のカツラタレントを見破り暴く団体がカツラKGBであり、この場合のKGBとは〈カツラ・ガンガン・バラス!〉の略称です。
ちなみに、最高幹部としての口癖は「カツラは決して許さない!」です。
とにかく殿は、大間のマグロ漁師が200キロクラスの大物を求め大海原をさまようかのごとく、日々、熱心にカツラを探しては見破り、一喜一憂しています。
以前、こちらでも書いた「北郷、今、NHKにカツラが出てるぞ。名前メモっとけな」と深夜にわざわざ直電してきたエピソードは、あまりにも有名な事実です。カツラを発見したら黙っておけない!それが殿。
で、この日の生放送中、以前、殿が何度か仕事をしたことのある文化人の方が“カツラであることをカミングアウトして、楽しく生きている”といった、少し不思議なVTRを見た殿は、“見破れなかった! 痛恨の極み!”となり、冒頭の言葉を口にしたのです。
で、こうなると殿のボヤキは止まりません。楽屋に帰ってからも「この失態は降格人事ものだな」「俺は明日から『カツラKGB北朝鮮支部』へ左遷だ」等々ボヤキまくり、最後には「〈たけし カツラKGB最高幹部を辞任〉って、お前、ネットに流しとけ」と、自身を罰したのです。
そういえば、殿は日々、「カツラKGBが遊びだと思ったら、大きな間違いだ!」と言っていました。
通常時の毒舌で攻撃的な殿も最高ですが、この日のように、一度落ち込んだ感じからの、自虐的ボヤキを連発する殿も、わたくしは大好物です。
少し話はそれますが、やはり年末のある生放送の中で、若手芸人のネタを次から次へと殿が見ては、時にツッコみ、時にネタを解説する番組があったのですが、その日の殿は、とにかくコメントがキレッキレッで、大げさでも何でもなく、1分おきに爆笑をかっさらっていました。が、あまりにもキレ過ぎたコメントのため、CM中にディレクターより「たけしさん、生放送なのでもう少し発言を抑えてください」と、軽い注文をされると、CM明け、ぶ然とした表情で黙り込んだ殿は一言、「CM中にディレクターに怒られたから、もうしゃべらない」とボヤき、さらなる爆笑をかっさらったのでした。長きにわたり、笑いの王様としての、変わらぬ毒っ気たっぷりなツッコミ。そして、弱ったふりからの自虐的ボヤキと、瞬時により面白いほうをチョイスする殿。くどいようですが、最高なんです。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!