「だけど今、ダイエット中でよ、酒飲むのやめちまってるんだよな」
先日、井手らっきょ兄さんが新年のご挨拶で殿の楽屋を訪れ「殿、今年もよろしくお願いいたします」と、薩摩切子に入ったブランド焼酎を献上しに来ると、
「おう、こりゃすげーな。ありがとな」
と、まずはお礼を述べた殿ですが、続いて冒頭の言葉をつぶやいたのです。殿は去年の秋頃から、ダイエットを兼ねて酒を断っていて、見事なまでにまったく飲んでいません。
もちろん現在も断酒は続行中で、飲む気配すらありません。そんな殿を近くで見ていて〈恐ろしく酒が強く、ほぼ毎日飲んでいた人がこうもパッタリ酒を断てるのか?〉と、まずは素朴な疑問が生じると同時に〈殿は本当に意志が強い〉と、改めて感心しています。
で、殿のこういった“強さ”は何も酒に限ったことでなく、一度決めたら、それが何であれ、自分の中で納得がいくまでやり通します。例えばタップダンスです。まだ浅草修行時代、師匠の深見千三郎さんからタップの手ほどきならぬ足ほどきを受け、タップを始めたのは有名な話ですが、殿は売れてからもタップを続けていました。が、多忙になり、いつしかタップをやめていた“ブランクの時期”を経て、50代半ば頃、あるタップのショーを目撃すると殿は感動し、
「ちきしょ! もう1回タップをやり直して、タップとピアノのショーをやってやる!」
そう宣言すると、週6で2時間、仕事終わりに自宅の稽古ルームでドカドカとタップを踏み鳴らす日々が始まり、その日々は、都合6年程も続いたのです。
当時、普段はテレビの収録を2本こなし、その合間に取材や打ち合わせもやり、夕方18時過ぎに帰宅すると、息をゼイゼイ吐きながら、タップを踏む殿の姿を至近距離で見ていたわたくしはつくづく〈この世界、何に対してもまじめで、決めたことを持続できるような人でなければ、トップにはなれないのだな〉と、改めて痛感したのをよく覚えています。他にも、ピアノや数学等々、いったん決めたらとことんやりつくす姿を何度も目撃しています。
が、何にだって例外はあります。15年程前、北野映画のクランクインが近づいていた殿は、撮影前恒例のダイエットに入り、楽屋でもどこでも、食事時になると、「俺はダイエット中だから」と、まったく弁当などに手を付けず、とにかくストイックに食をコントールしていました。そんなある日、テレビの仕事で泊まりのロケへ行き、やはり夕食を抜いた殿。ところが翌日、殿を起こしに部屋へ入ると、スープまでしっかり空になった、みそ味のカップラーメンの容器が流しの横に置いてあったのです。そして、起きてきた殿は、
「またやっちまったか。しかし、我慢して食うラーメンほどうまいもんはないな!」
と、実に素直に、欲望に負けた夜について嘆いたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!