69年に19歳で歌手デビュー。翌年に20歳で「やめて」というフレーズを吐息まじりに歌った辺見マリ(68)の「経験」(70年)は、ズバ抜けた色香で世に衝撃を与えた。
「経験」は代表曲ですけど、実際は2曲目のシングル。デビュー曲は「ダニエル・モナムール」という曲、当時とってもはやっていた“ジュテーム”という言葉を繰り返す曲をご存じかしら? 彼への愛の告白をテーマにしたフランスの香りを漂わせる曲で、私はデビューからセクシーさを意識していました。
それがシングルランキングで35位くらい。そこそこの売れ行きではあったんです。でも、次は1位か2位のヒットを飛ばさないと、終わっちゃうんじゃないか‥‥。
そういう焦りもあって、2作目の「経験」をいただいた時に、研究してできあがったのがあの振りです。テレビ局の化粧部屋で鏡に向かって、「どうやったら顔を隠さず、だけどみんなに印象づける手の振りになるかな」と研究を重ねた。あの頃、フィンガーアクションと呼ばれましたけど、あれはフラメンコを意識してできた踊りだったんです。
実は当時、スペイン系のハーフだということを親から告白されたばかりで、フラメンコを習い始めたことと、そこに4歳から習っていたバレエのアレンジを加えて、自分で振り付けをしたんです。スタッフもみんな私の意見を取り入れてくれて、自由な時代でしたよね。親からの思いがけない告白、フラメンコ、バレエ、いろんな経験が重なって、「経験」はヒットした気がします。
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ただし、ヒットしながら紅白歌合戦で歌えなかったことが残念と振り返る。
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私たちの時代の紅白って、本番まで衣装を公開することはなかったので、リハーサルの際も出演者にはわからないように隠していたんです。あのセクシーな衣装で「経験」を歌うことを期待していたかなと想像しますけど、3枚目のシングル「私生活」で紅白には出られたので、それはそれでよかったですね。
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ところが辺見はその翌年71年、本当の私生活で西郷輝彦と結婚して引退。81年に離婚して芸能界に復帰したものの“拝み屋”に洗脳されるというブラック時代を経て、現在は再びセクシー歌手として、全国を飛び回っている。
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ダマされて周囲に迷惑をかけたりしながらも、またこうやって歌えているのは、家族やみんなのおかげですよね。
最近では女性のファンも増えました。昔は世の妻の敵というか、「そんな色気を振りまいて!」と女性から反感を買っていたこともありました。
それが、私にいろんなことがあったせいで、今では「何でも相談したい人」になってますから(笑)。だからこそ何か世の中に恩返しができないかなと思い、なるべくデビュー時代と雰囲気だけは変わらないように、同じ時間に御飯を食べて、早寝早起き。そしてスタイルを保つ!
私にマジメっていうイメージないでしょう? みんなが描いている「やめて~」の色っぽいオバさんだけじゃないんですよ(笑)。
でもね、最近はようやくグレーの部分も見つけられるようになり、今は充実してます。これもやっぱりいろんな“経験”のおかげですね。