アメリカの狙いは、それだけではない。世界的にも規制が厳しい医薬品や医療業界への参入もうかがっているのだ。
「もしTPPにより、保険の制度が変われば、日本の皆保険制度も必然的に変化せざるをえません。健康保険で認められている治療の範囲外を自己負担で支払う混合診療についても、現状では認められていませんが、今後は、見直しも余儀なくされるかもしれません。また、外資が病院を買収して株式会社の病院がたくさんできるなんてこともあるかもしれません」(前出・荻原氏)
患者にとっては、一見すると朗報に思えるかもしれないが、「最終的には医療費がかさみ金持ちと貧乏人に二極化する」(経済ライター)だけに、慎重な議論が必要だ。
ではTPP参加で、アメリカとの熾烈な競争に突入する工業製品はどうか。
荻原氏の解説によれば、
「工業製品に関しては、すでに90年代に自由化を進めて、かなり低い関税率になっていますから、TPP参加で日本に有利に働くかもしれません。ただし、気をつけるべきはアメリカの“バーターの論理”で、アメリカは自動車の関税撤廃を認める一方で、TPPとは関係なく、アメリカ車の日本への輸入台数を要求してくるかもしれず、貿易摩擦が深刻化するおそれもありますね」
では、日本が最も危惧している農産物への影響はどうか。インターネット証券会社・マネーパートナーズのアナリストで、アベノミクス以後のマーケット予想で高い的中率を誇っている藤本雅之氏の意見を聞こう。
「農作物に関しては、基本的には国内の農家にとってマイナスですが、実際にはどこまでマイナスかはわかりません。例えば、国産よりも安い海外の食品が大量に入ってきたからといって、何でも安ければ買うかといえば、そうとも限りません」
日本の場合、福島原発の爆発事故や一連の食品表示偽装事件などにより、食の安全性に対する関心も高い。それだけに「価格」という選択肢だけが、消費行動を規定しているかというと、疑問も残る。
農業ジャーナリストによれば、
「日本農業の大多数は、零細の兼業農家が中心。こうした零細業者にとってはマイナスだが、一方、徐々に競争力をつけた生産性の高い大規模農家や、技術指導を兼ねて外国に進出する農家もある。中でも、技術指導型の日本農家が世界を席巻する可能性はかなり高いでしょう」
庶民の生活にとってはマイナスばかりではない。スーパーやコンビニなどの小売り、居酒屋やファストフードなどの外食産業も今後の躍進が期待できる。
「当然、TPPによりモノが安く仕入れられるわけですから、小売りや外食関係はおしなべてプラスでしょう。また、人・モノの流動性や自由度が高まるという意味では、観光業や酒造メーカー、商社にとってはプラスでしょうね」(前出・荻原氏)
外国産牛肉の関税撤廃で、再び牛丼戦争が起こる日も近いかもしれない。