暴排条例が全国完全施行されて1年半。いまだ謎に包まれているのが、条例施行直前、山口組との交際を理由に突如芸能界を去った島田紳助の「引退の真相」だ。折しも山口組NO2の高山清司若頭の京都恐喝事件の判決公判を控えた今、紳助と山口組との関係を長年捜査してきた大阪府警のマル暴団担当刑事を主人公としたドキュメントを、本誌連載執筆者の森功氏が発表した。マル暴刑事のもとに蓄積された膨大な捜査データが初めて明かす「山口組と芸能界」の真の関係とは──。
あの電撃引退会見から、はや1年半になる。島田紳助(56)が所属先のよしもとクリエイティブ・エージェンシーの水谷暢宏社長と席を並べ、芸能界を去る発表をしたのは、2011年8月23日のことだった。
年間5億も6億も稼ぐと言われた大物タレントの突然の引退劇は、過去、例のない出来事だったに違いない。芸能関係者のみならず、ついぞ芸能界に関心のない者を含め、誰もが驚いた。
そんな紳助の引退は、まだまだ生々しい記憶として人々の頭に残っているのではなかろうか。かつてMCをしていたテレビ番組「なんでも鑑定団」(テレビ東京)を観るたび、彼の姿を思い起こしてしまうのは、私だけではあるまい。
この度、上梓した「大阪府警暴力団担当刑事『祝井十吾』の事件簿」(講談社刊)は、その島田紳助の引退劇から書き始めた。拙著の主人公である祝井十吾は、問題になった紳助と山口組極心連合会との関係について長年捜査してきた大阪府警でも“鬼の捜査4課”と呼ばれた実在の捜査員であり、いうところのマル暴刑事だ。読みやすいよう刑事部捜査第4課に所属した複数の刑事たちを総称し、こう呼ばせていただいた。
その祝井十吾は、くだんの記者会見をテレビで見ていた、という。改めて感想を尋ねると、
「紳助、よう言うわ。認めるんなら、もっと正直に話さんかい。そう思いましたね」
と、吐き捨てるようにそう言ったものだ。
常日頃から山口組と対峙している大阪府警の強面のマル暴刑事たちは、華やかな芸能の世界などと縁が薄いように感じるかもしれないが、決してそうではない。マル暴刑事がなぜ芸能界とヤクザとの関係に関心があるのか。一言でいえば、それは捜査の一環だからだ。
芸能界に限らず、政治や企業活動、さらに宗教や風俗にいたるまで、ヤクザの活動は日本の社会に根付いてきた。彼らの行動に目を配るマル暴刑事の祝井たちが、そこに行きあたるのは必然というしかない。
いかにヤクザと日本社会が混然一体化してきたか。拙著は、それをマル暴刑事たちの視線で追いかけた記録である。ヤクザのネットワーク解明が大きなテーマの一つであり、そこには当然のごとく芸能界との交わりが登場する。
たとえば紳助が引退しなければならなくなった直接の引き金。それは、極心連合会の相談役とされる元プロボクサーの渡辺二郎(57)と交わしていた自らの携帯電話メールだった。メールの更新記録が吉本興業にもたらされ、観念せざるを得なかったとされる。
だが、本来個人情報であるはずのメールのやりとりが、なぜ表に飛び出したのか。そこに祝井たちの疑問がわく。拙著からメールの部分を一部抜粋する。