「闇営業なんて言うか? こっち(関東の芸人)はショクナイって言うよな」
つい先日、闇営業をいけない団体から引き受け、さらに先輩を斡旋したとかで、1人の芸人が芸能事務所を解雇になるニュースが、テレビやネットなどで騒がしく報じられると、殿は冒頭の言葉をこちらに投げかけてきたのです。
ちなみに、闇営業とは? 所属している事務所を通さず、芸人が直で仕事を受け、直でギャラを受け取ること。そんな行為を関東では「ショクナイ」と言います。
さらに殿は、
「ショクナイでクビなら、俺なんて死刑だな」
と続けると、“ショクナイならこんな話があるぞ”といった感じで、瞬時にこう語りだしたのです。
「昔よ、太田プロ時代に田無の祭りにショクナイで行って、やぐらみたいなところに上がって漫才始めたら、目の前に太田プロの社長と副社長が座ってたんだから。2人とも普通に客として来てたんだよ」
まさかの“社長にじかにバレるパターン”とは! いやはや──。で、この日は殿と「芸人とショクナイ」といった話でひとしきり盛り上がりました。そして、それがショクナイかどうか定かではありませんが、以前、殿から聞いた“オイラが行ったビックリ昭和営業話”を、わたくしは思い出していました。殿から聞く“売れなかった時代の営業話”は、そのどれもが最高なのですが、わたくし的に、特に大好物な話は、こんな切り口から始まります。
「船の上で漫才やらされたこともあったな」
何でも、小さな船に乗せられたツービートが、客の待つ桟橋目がけてゆっくりと現れ、ちょうど客前に来たタイミングで船上から漫才をやる営業だそうです。
「しばらく船に乗って、客から見えない岩場の陰で待機するんだけどよ、その時点で揺れてるから、船酔いしちゃって気持ち悪いの何のって。それで時間が来てゆっくりと客が集まってる桟橋の前に行くんだけどよ、揺れて揺れて漫才なんてできねーんだよ。しまいには相方が客の前でゲーゲー吐き出しちゃって、ひでえもんだったよ」
まさに、今じゃありえない営業です。他にも、
「スケートリンクの真ん中で漫才やらされたことがあってよ。これが寒いの何のって大変だったんだけど、最悪なのは、滑ってる客相手にネタ振っても、オチの時にはもういねーんだよ。だからまるっきりウケないんだよ」
殿はこうした昭和営業残酷話を山ほど持っていて、いつだってこちらが振ると漫談モードで聴かせてくれます。で、こういった営業話になると、決まって殿は島田洋七師匠の“ホラ吹き営業伝説”を語るのです。
「洋七が行ったと言い張ってる、出所漫才って知ってるか? 朝、刑務所から出てくるヤクザの親分の前に行って、歩きながら『はいどうも~』って、出所祝いに漫才やらされたって言うんだよ。ウソつけ!」
しかし、いちいち最高です。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!