──「北斗の拳」のイメージも大きいですけど、もともと原哲夫先生が「フレッシュジャンプ」で描いた読み切りがあって、それをあそこまで膨らませたのが武論尊先生なわけですよね。
武論尊 そうそうそう。2本ぐらい読み切りを描いてたんだよね。それを見せられて、続きを書いてくれって言われた時、読み切りだと主人公は現代の高校生だったんだけど、これは近未来でしか活かせないだろうなと思って。たぶん「マッドマックス」の影響があったんでしょうけどね。
──「北斗の拳」があそこまで当たると思いました?
武論尊 こんなに化けるとは思わなかったですけど、あの経絡秘孔っておもしろいのがいくらでもバリエーション利かせて書けるんで、これはヒットするなって手応えはあったよね。
──ああいうのが武論尊先生の嘘のうまさですよね。
武論尊 すごいよね、俺もそう思う。だって資料なんて鍼のツボの本が1冊あるだけなんですよ。それを引っ張り出してきて、ちょっと位置を変えてやっただけで、あとは難しい漢字をつなぎ合わせて。それはおもしろかったですね、何分後に爆発するとか、後ろ向きにしか歩けなくなるとか、笑いながらやってました。
──基本はギャグですか。
武論尊 原君もたぶんギャグ漫画の感じで描いてるはずなんですよ。本人もギャグ漫画家って言ってますけど、原稿上がってきて俺が笑っちゃうことありましたからね。特にザコをイジメる時は。完璧にこの人はイジメッ子だなと思いますね。だから原君に権力渡したら怖いですよ、あの人。
──ダハハハハ! 「北斗の拳」で手応えを感じたのは2回目の原作を書いた時ってよく言ってますね。
武論尊 それは苦しんだんで。ホント見切り発車で舞台だけ設定したから、1回目を書いたあと、「何でこいつは旅してるんだ?」って、そこから入って。そこで初めてロードムービーっていうか、旅をする理屈を作り出したから。よく考えたらいい加減ですよ。
──どういう感じで共同作業をやってたんですか?
武論尊 まず、その回のあらすじを2ページぐらい書いて、それを担当編集の堀江君(注・現コアミックス社長の堀江信彦氏)に渡すんですよ。堀江君が「これでいいんじゃないですか?」って言ったら原稿を書くんで、2回打ち合わせがあって。それで原稿を渡して、ダメな時は何回書き直したってOK出ない。何回も階段の上から突き落としてやろうと思いましたね(笑)。
──殺害寸前で(笑)。
武論尊 何も言わないで突き返すんですよ。ホントにムカつくんだけど、いい時は「やればできるじゃないですか」って、これが一番ムカつくんです。だからいつも闘ってましたね。
──その結果、ここまでの作品になったっていう思いも当然あるわけですよね。
武論尊 そう。だから彼の能力ってホントに的確なんですよ。おもしろいかおもしろくないかっていうのは堀江君のツボに入るか入らないかなんです。顔見りゃただの鈍感男だし、態度のデカい男なんだけど、そのツボだけはすごいものを持ってるから、たぶん全面的にこいつの言うことは信用していいっていう。そうじゃなきゃ「いや、こっちを通せ」って喧嘩してるね。
プロインタビュアー 吉田豪