漫画「北斗の拳」連載開始から、今年でちょうど30年。節目の年を迎え、その原作者である武論尊氏が本誌の取材に答えた。その筆先から生み出された数多くの作品、そして物語を躍動させる男臭い登場人物たち──。その制作中の秘話、物語のバックボーンとなった自身の生涯まで全てを語り尽くした!
──先日、「原作屋稼業 お前はもう死んでいる?」(講談社刊)という自伝風小説が出たわけですけど、非常に変わった形の本ですよね、これ。
武論尊 そうですね、ただの自伝だととても恥ずかしいんで。だって、俺の自伝を買うヤツいねえじゃん。
──ちゃんといますよ!
武論尊 いやいや、そんなたいしたもんじゃない。たぶんそんなに売れないと思うから、違う形で出したほうがおもしろいかなって。
──それで小説仕立てにして、別の主人公を立てて。
武論尊 これならおもしろい読みものとして買ってもらって損はしねえかっていう。ただの自伝で、自慢話ばっかり見たってつまんねえじゃん、買った人は。
──でも、武論尊先生だったら自慢よりも自虐が中心になると思いますけど。
武論尊 いや、俺は自慢しいだよ(あっさりと)。
──ダハハハ! ちなみに、本に出てくる武論尊的な先生は実像に近いんですか?
武論尊 いや結構デフォルメしてっけどね。性格はわりと近いけど、そんなに派手に生きちゃいないよ。大豪邸に住んでるわけじゃないし。おネエちゃんを追いかけてるのはホントですけど、それはもう俺の存在価値みたいなもんだからね。
──あ、存在価値はそこ!
武論尊 だって色っていうのがなくなったら生きててつまんない気がしない? 俺自身の色気もなくなるし、完全に枯れちゃったらものなんか書けねえってとこがあるじゃん。だから電車に乗っても、「ヤバいヤバい、手を上げとかなきゃダメだ」とか、まだそこがあるわけ。捕まりたくない、絶対に危ないなって。
──つまり、魔が射して事件を起こす可能性がある!
武論尊 そう、だからまだ大丈夫だなと思うよね。
──「武論尊、痴漢で逮捕」は衝撃ですよ(笑)。
武論尊 スポーツ紙の1面だよ、「アタタタタ、やっちゃった」って出るな。見出しとしては最高だよね。
──「お前はすでに社会的に死んでいる」とかですよね(笑)。でも、この本を読むと武論尊先生の人生に興味が出ると思いますよ。
武論尊 そうですかね。普段はふつうだよ。そんなにカッコいいことないから。漫画から想像するわけじゃん。こんなもの書いてるからきっと男気があってすごいと思うだろうけど、そこは少し覆したいからね。
──やっぱり「ドーベルマン刑事」、武論尊っていう並びがあまりにもハードボイルドすぎましたからね。
武論尊 そのあと当たったのもだいたいハードボイルド系でしょ。コメディもいっぱい書いてるけど、そっちは史村翔名義だし。
プロインタビュアー 吉田豪