大崎氏は「紳助がレスラーになるなら、マネジメントしようかな」と冗談めかして話した。それは、大崎氏がタレントとの堅い信頼関係を築いてきた証左にも思えた。そして、この信頼関係こそが、吉本興業のビジネスの根幹なのだろう。大崎氏自身もダウンタウンとの関係では多くの逸話を持っている。
仕事以外でタレントさんと連れ立って遊びに行ったり飲みに行ったりしたことはほとんどなかったけど、一度だけ、まだダウンタウンがくすぶっていた時代に松本と2人で旅行に行ったことがあるんです。松本の車で岡山の安い温泉旅館まで行ったんだけど、飯もまずいし、岩風呂って書いてあった露天もコンクリを固めたような風呂でした。僕が『この岩登れば、女風呂をのぞけるんちゃうか?』なんてよじ登ったら、松本が『大崎さん、キン○マ、まる見えでっせ』って言われたな(笑)。その帰りに松本とサウナに行って、「このプール、25メートル息継ぎなしで潜水できたら、この先、1つだけどんなムチャなことでも言うこと聞いてくれるか」という約束もした。これも別に囲うとかではなく、松本の芸に対するプライドみたいなもんと、吉本のビジネスとの折り合いをつけるために何かしておきたかったという思いからこんなことをしてたんでしょうね。
前出の一区切りの自叙伝には、多くの吉本を支えるタレントたちとのエピソードが描かれている。ところが、ナインティナイン以降の世代は何も書かれていない。もしかしてナイナイとの不仲説は本当なのか。
皆さんおもしろおかしく書くから(笑)。確かに、ナイナイとは十数年前に3人で飯を食ったことがあるくらいで、そんなに接点はないです。でも、現場の人たちにしたら僕みたいな上の世代の人間がよけいな口を出してきたら仕事がやりにくいからであって、不仲でも何でもないです。
僕が吉本新喜劇の再生プロジェクトをやった頃から、ナイナイのことは、おもしろいと思って見てましたよ。まだ彼らが大阪にいた頃で、舞台に出演した時、たまたま舞台袖にいた岡村君を捕まえて『自分、新喜劇やらへん? 自分が来てくれたらメチャクチャ売れるんやけど』って言ったら、岡村君もキョトンとしてましたけど(笑)。
そういえば、アサ芸さんにはウチの西川のりおが連載させてもらってますけど、僕が入社して最初に担当マネジャーをしたのが、のりお・よしおだったんです。僕が取ってきた仕事をスッポかして、自分らで取ってきた営業に行かれたことがあったんでね(笑)。よくケンカもしたけど、それもお互い真剣にやってぶつかり合った結果です。実際、当時の僕はこのコンビが世界でいちばんおもろいって思ってたし、マネジャーはそのくらいタレントさんに気持ちが入るものなんです。
先日、京都花月で2人の漫才を20年ぶりくらいに見たんですが、日本一ちゃうかっていうくらい本気でめちゃくちゃおもしろかった。あれを見て思ったのが、やっぱり人は成長するんやなってこと。その意味では、タレントさんも僕も会社も、世間様からいろんなお叱りを受けることはあるかもしれないけど、叩かれながらでも成長していければいいと思っています。