自民党議員が続けて説明する。
「量的金融緩和でデフレが解消されることも、積極的な財政出動で景気が刺激されることも、経済学の本の最初に書いてある基本中の基本。要はこの2つの政策を強力かつ同時に行った総理がいなかっただけの話で、これを秘中の秘の安倍マジックと思わせてしまうあたりが、安倍さんの実に巧妙なところなんです」
そこで真価が問われてくるのが、第3の矢に当たる成長戦略である。
安倍総理はTPP(環太平洋経済連携協定)に代表される規制緩和などによって、持続的な成長を可能にする新たな経済環境を整えたいと考えているようだが、これはあくまでも表向きの話。口が裂けても言えないのはズバリ、「雇用」と「賃金」を巡るカラクリなのだ。
先頃、ユニクロを世界各地で展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長(64)が「年収が100万円になってもしかたがない」という仰天発言を4月23日付の朝日新聞のインタビューでブチ上げた。柳井氏は「世界同一賃金」の導入を宣言したうえで、「将来は年収が1億円か100万円に分かれていく」「グローバル経済は『Grow or Die(成長か死か)』だ」と言い放ったのである。
安倍総理に近いベテラン議員が重い口を開く。
「グローバル経済の最大のキモは、日本の労働者が途上国の労働者と『賃金』で競争しなければならなくなる、という点にある。その意味で柳井氏の指摘はまったく正しいが、アベノミクスが国民の高い支持を集めているこのタイミングで言われてしまうと‥‥。安倍総理の周辺からも『本当のことを言えばいいってもんじゃない』との声が上がっていましたよ」
「本当のこと」──それが次の一手たる「準社員化法案」なのである。安倍総理が成長戦略のトリデと位置づける産業競争力会議や規制改革会議では「労働力を衰退産業から成長産業へ移行させる」との大義名分の下、前述した「過剰在庫」を一掃するためのあの手この手が準備されている。その目玉が「準社員化法案」なのだが、
「ザックリ言えば、余剰労働力を整理して製造産業に国際競争力をつけさせ、返す刀で整理済みの大量の労働力をサービス産業に流し込むという話。したがって雇用は拡大するが、賃金は先細っていく。例えて言えば、一部上場メーカーの営業部長が外食産業の店長候補として再就職するような感じでしょうか。カラクリの核心部はやはり雇用形態と賃金。『準社員化法案』はメガトン爆弾級と懸念されているのです」(前出・ベテラン議員)