「アベノミクス」は「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の「3本の矢」で構成されている。先行して、「金融緩和」と「財政出動」の2本の矢が放たれた。
日銀総裁をすげ替え、日銀が国債を大量に買い取ることで、お札が市場に出回る。この「金融緩和」によって、2%というインフレターゲットを目指し、現在も円安が進行している。一方で、政府は「財政出動」で大型予算を発動した。これにより需要が喚起されて、すっかり景気が回復して、株価も上昇したかに思える。
しかし、株式評論家の山本伸氏はこう話す。
「上げ相場には2段階あって、現在は第1段階の『金融相場』の状態です。日銀総裁が『異次元金融緩和』を実施したことで、円安となり、輸出産業の収益回復の期待感から株価が上昇しているのです。一部の企業では収益が回復しているが、本当に企業収益が上昇したことで株価が上がる次のステップである『収益相場』になるのは来年以降になるでしょう」
ということは、今のところお金は金融市場だけで回っていて、庶民のもとには届いていない。いわば、バブルの状態なのだ。
しかも、金融市場に流れ込んでいるのは海外の投機マネーである。庶民の生活など考えず、安く買って高く売ることしか考えていない連中である。もし、「アベノミクス」効果が賃金に波及する前に、投機マネーが日本から去ってしまえば、バブル崩壊である。
冒頭の一覧表を提示した大門議員はこう話す。
「バブルがはじける危険性はもちろんあります。しかし、私が一覧表を示した最大の理由は、たとえバブルがはじけなくとも、『アベノミクス』は格差を助長するという点を指摘したかったからなのです」
連合が公表した13年の春闘の回答集計(第5回・5月10日公表)によれば、傘下労働組合の平均賃金引き上げ額は前年比で月額74円である。単純に比較はできないが、冒頭の一覧表にある経営者たちの資産増加額と比べれば、実にちっぽけなのだ。
ましてや、連合傘下の組合は大企業ばかり、いわゆるエリートサラリーマンだ。我々、庶民派サラリーマンはスズメの涙程度の賃上げしか望めないのは明らかだ。
「アベノミクス」の成否を決めるのは、庶民の賃上げができるかどうかにかかっている。すでに輸入品を中心に物価は上昇しているのに、給料に「アベノミクス」効果が表れるのは最終段階になるという。それまでに庶民は干上がってしまい、先の一覧表のように金持ちはドンドン大金持ちになっていく。格差だけが大きくなりそうなのだ。
「個人所得の格差だけでなく、それに伴い生活水準にも格差が生まれます。また、仕入れの価格を反映する企業物価も上昇しており、大企業はともかく、中小企業はコスト増をなかなか価格に反映できません。企業間格差も大きくなるのです」(前出・大門議員)
安倍総理は庶民派サラリーマンを“殺す”つもりなのか。